忍者ブログ

およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

~ Ⅶ.Golden Earrings ② ~

 映画の後、二人は曾根崎(そねざき)にあるイタリア料理の店に
行って食事を摂った。
「ワイン、もう一本飲む?」
 あっと言う間に空になったボトルに目をやって、麗子は勝也に
訊ねた。
「そうやな──おまえは?」
「あたしはもういいわ。ハーフボトルにしたら?」
「うん」
 勝也は頷くと周りを見回し、客が帰った後のテーブルを片付けて
いる店員に目で合図をした。
 店員が近づいてくると、勝也は空のボトルを示して言った。
「これと同じやつ、ハーフで」
 店員は軽く会釈をして戻っていった。
 向き直った勝也に、麗子が落ち着いた声で訊いた。
「ちょっと見ないあいだに、ずいぶんやつれちゃったんじゃない?」
「そうか?」
と勝也は首を捻った。「──うん、やっぱりそうかな。二週間
ぶっ通しで十七時間労働やったから」
「まともな時間に電話掛けても、ちっとも通じなかったもの」
「悪かったよ。留守電に入れといてくれてたのは聞いてたんやけど
──帰ったらいつも夜中やったし、バテてもいたから返事
できひんかった」
「いいのよ、それは。それより大丈夫なの? 体調は」麗子は
言った。「あんた見かけに寄らず、まるっきり丈夫って訳じゃ
ないから」
「五年以上もお巡りやってると、それももう馴れたよ」 
 ふーん、と麗子は溜め息をついた。「あたしはまだ馴れそうにも
ないわ。あんたのそんな話」
「そのうち当たり前みたいに思うようになるって」
 勝也は伏し目がちに言って小さく笑った。
 店員がワインを運んできた。栓を抜き、空になっていた二人の
グラスに適量を注ぐと、古いボトルの入ったワインクーラーを
下げて新しいのと交換し、静かに去っていった。
「──ねえ」
「うん?」
「この三週間近く、あたしがどんなことを考えてたと思う?」
「俺のことでか?」
「ええ……まあ、そうね」
「俺だけやなくて、真澄のことなんかも全部含めてってことでやな?」
「そう。その通りよ」麗子は頷いた。
 勝也は少し考え込むように、テーブルに並んだ料理を眺めた。
それから上目遣いで麗子をちらりと見ると、口の端に微かな笑みを
浮かべてゆっくりと言った。
「自分が、俺とほんまにそう言う関係になってもええのかどうか」
 麗子はぱっと顔を上げた。ぴったり、その通りだったからだ。
「大当たり、か」勝也はにやりとした。「そうびっくりすんなよ。
俺のことを、九年前からおまえを知ってるキャリア五年の警官やと
思たらええんや」
「そうね」
「おまえとの電話での話とか、留守電のメッセージなんかから、
おまえの、俺への気持ちが段々と固まってきてるっていうのは
感じてたよ。それが嬉しかった。けど一方では、おまえが必死で
真澄の存在とか過去の自分に起きたことと 向き合おうとして、
苦しんでるのも分かってた。けど俺にはそれをどうしてやることも
でけへんし、するべきでもないって思てたからな。せやからいっその
こと、忙しいのを理由にあえて連絡を取ろうともせえへんかった。
だってこれは、おまえが自分で決着をつけな意味のないこと
なんやし、俺が強引に忘れさせようとしたって無駄やってこと、
俺は百も承知やったから。おまえは何でも自分自身で決着を
つけな気の済まへん女なんや。それくらい俺かて分かってる
つもりや」
「勝也……」麗子は小さく首を振った。「そこまで──」
「もちろん、俺がこんな余裕を見せてられるのも、おまえがきっと
ええ結論を出してくれるって信じてるからやで。おまえもそう
言うてくれてたし、俺もそう感じてる。でないとやっぱり心配で、
いくらバテてて、真夜中でも毎日電話してるよ」
 麗子は料理には手をつけず、じっと勝也を見つめたままだった。
「ほら、『押しても駄目なら』って言うやつや」と勝也は笑った。
 麗子は恨めしそうに勝也を見た。「……そんなんじゃないくせに」
「ああ、そうやな」勝也は肩をすくめた。「でも、ひょっとして
その方が効果的かなって思たのは事実や」
 麗子は黙って頷いた。
 店内は客がまばらになってきていた。それもそのはずで、
あと二十分もすればラスト・オーダーの時間だ。それでも良かった。
二人は充分食べていたし、また飲んでもいた。

「──今日は、髪型を変えてるんやな」
 勝也がぽつりと言った。
「ただ後ろで留めてるだけよ」
 麗子は顔を上げ、にっこりと笑った。
「顔がすっきり見えるし。ピアスも」
「そ……そう」
 麗子はまた下を向いた。はにかんでいると言うより、困惑している
ようだった。
「そんな大きいの、いつもは付けてへんやろ」
「……ええ。仕事上俯いて読み書きすることが多いし、邪魔に
なるから」
 麗子はいくぶん表情を強張らせて言った。
「綺麗や」
「えっ?」
「綺麗やて言うたんや。訊き返すなよ」
「やあね。酔っ払っちゃってるの?」
 麗子はあどけない笑顔になり、思わず勝也から視線を逸らした。
「酔っ払ったからって、口説こうなんて思てへんで」
 麗子はふふっ、と笑った。そして何気なく周囲を見渡して、
自分たちの話が聞こえる範囲に人がいないのを確認し、言った。
「ねえ、勝也」
「なに?」
「……二人きりになる場所へ行きたいわ」
「えっ?」勝也は思わず顔を上げた。
「あんたも訊き返したわよ。ちゃんと聞いてないの? それとも
わざと?」
「いや──」
「二人きりになりたいって言ったのよ。それも、寒空の下じゃなくて、
暖かくて、ちゃんと落ち着けるところ」
「麗子……」
「いいでしょ?」
 そう言った麗子の瞳には、勝也に有無を言わさぬ強引さが伺えた。

 


目次へ                           
The Golden Earrings ③ 

 

 

拍手[0回]

PR

この記事へのコメント

Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
管理人のみ閲覧できます
 

デートだ、わーい。

デート。女の子目線で、女の子がいってもらいたいことがもりだくさんですねえ。私はこれほど長いロマンスシーンを描いたことがなくサプライズですよ。(笑)
  • from 狼皮のスイーツマン :
  • URL :
  • 2009/10/17 (08:40) :
  • Edit :
  • Res

狼皮のスイーツマン様

私も決して得意ではありません。
絞り出しています。正直必死です。^^;
  • from みはる :
  • 2009/10/18 (01:28)

カレンダー

10 2017/11 12
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

カウンター

ビジター

最新コメント

[05/19 スイーツマン]
[05/17 スイーツマン]
[05/17 スイーツマン]
[06/24 奄美 剣星  (旧称/狼皮のスイーツマン)]
[05/02 maki]
[10/11 かなる]
[08/18 狼皮のスイーツマン]

お知らせ

日々の暮らしに追われ、長期に渡り記事の更新が滞っている状態です。申し訳ありません。



「佳日の紫丁香花 (ライラック) 〜For Your Splended Wedding〜」完結しました。

★Web拍手ボタンを各記事の下部に設定し直しました。ホメてやろう!という方はクリックお願いします。

縦書きでも読めます




Amazonでましゃ

rakuten

プロフィール

HN:
みはる
性別:
女性
趣味:
映画、読書、福山雅治
自己紹介:
好きな作家 
Ed McBain
Pete Hamill
宮部みゆき 
高村薫 
東野圭吾

好きな役者 
ブラピ 
佐藤浩市

好きなオトコ
福山雅治
        

Nicotto Town

バーコード

Copyright ©  -- およそ【文学】とは言い難いけれど。 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Photo by momo111 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]