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およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

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~ Ⅴ.Does Your Heart Beat For Me ②~


 それから二人は麗子の車に乗ってまず江坂(えさか)で
昼食を摂り、そのあと京都へと向かった。
 幸いにして高速道路は空いていた。それでも一時間近くは
ゆうに掛かり、やがてテレビや雑誌などで古都の風情を
表現するときの象徴的な絵柄に必ずと言っていいほど
使われる東寺(とうじ)の五重塔を確認すると、車は二人が
通っていた大学のある上京区(かみぎょうく)へと向かった。

 そして二人は今、大学のキャンパスのほぼ中央を貫く
通りの両側に並んだ石のベンチの一つに座って、前を
通り過ぎていく学生たちをぼんやりと眺めていた。
 この時期、こんなところで日向ぼっこができるほど暖かい
わけではなかったが、二人とも門を入ってしばらく歩くと昔の
習慣を思い出してか、自然にベンチへと足が向き、腰を
下ろしたのだった。

 この大学も試験前とあって人影もまばらで、時折同じ敷地内に
ある附属中学校の生徒たちが五、六人のグループを作って
はしゃぎながら行き過ぎていくのが目立った。二人の向かい側の
少し奥へ入ったところにある、三角形の屋根と丸いステンド
グラスを持つ煉瓦造りのチャペルは竣工から百年以上が経つ
骨董品だ。かつては同じ敷地内にあった付属中学の生徒たちが
毎朝礼拝に使っていたらしく、勝也も麗子もその中に入ったことは
一度もなかった。


「──懐かしい?」
 麗子は勝也に振り返って言った。
「そりゃまあな。そもそも今はこういう雰囲気とは縁がないから」
 勝也はゆっくりと視線を右から左へと流しながら言った。
「あたしは一昨年ぐらいまではちょくちょく来てたから、そうでも
ないわ」
 麗子もあたりに並んだ校舎を見渡した。「それにしても、
やっぱり趣があるわね。殺風景なうちの大学とは大違い」
「これが私大の取り柄やろ」
「……最初は、どうしても好きになれなかったわ」
 麗子はぽつりと言った。「この街のことも、住んでいる人間の
ことも」
「お高くとまってるからか。たいした伝統とかを鼻に掛けて」
「そこまでは思わなかったけど──アメリカ育ちの、十八歳の
女の子が、日本で初めて同世代との集団生活をこの街で
始めるのよ。カルチャーショックもいいとこ。いくら古いところが
ボストンと似てるって言われたからって、ボストンはアメリカよ。
日本の京都とは大きな違いがあるわ」
「けど、京都はその時が初めてやったわけでもないんやろ?」
「ええ。夏休みには毎年来てたわ。十歳になったのをきっかけに、
父があたしを一人で日本に行かせることにしたの。真澄の家に
滞在して──十六歳頃まで続いたわ。でも、それはあくまで
バカンスよ」
 麗子は学生たちを目で追いながら淡々と話した。
「その頃、真澄はすでにお茶とお花を始めててね。他にピアノや
日舞、英会話なんかも習ってたわ。彼女、とっても忙しそうだった。
あたしとも遊びたいし、それで八月の終わりになっても学校の
宿題が出来てなくて──あたし、よく手伝ってあげたものよ。
日本語はあまり上手に書けなかったから、絵なんか描いたり」
「ほんまに仲が良かったんやな」
「ええ。何度も言うけど、まさに姉妹よ」
 麗子の言葉に、勝也は力なく笑って頷くと下を向いた。

「──コンプレックスよ」
「えっ?」
「そう。この街を好きになれなかったのは、そうやって夏休みを
真澄の家で過ごしていた頃にあたしの中に根付いたコンプ
レックスが、ここに入学したときに途端に目を覚ましたからなの」
「いったい何のコンプレックスや?」
 麗子は深刻な表情で勝也を見た。「真澄よ」
「真澄に?」勝也は首を傾げた。「どうして? 仲が良かったって
言うたくせに」
「そこが女同士の陰湿で複雑なところとでも言うのかしら」
 麗子は苦笑した。 「前にも言ったとおり、その頃のあたしは
自分に自信があったし、美人で秀才なんて言われて結構
思い上がってもいたわ。真澄もそんなあたしを羨ましがってたし、
その点ではおそらく彼女もあたしに対してのコンプレックスが
あったと思うの。でも、あたしには真澄のお嬢様ぶりがひどく
羨ましかった。羨ましくもあり、同時に反感も覚えた」
「おまえが人を羨むなんてな」
「思うわよ、あたしだって。とにかく最初は信じられなかったわ。
娘のためだったら時間とお金を惜しまないっていう親がいて、
娘もそれが当然だと思ってて──あたしなんか、学者の娘だか
何だか知らないけど、まるっきりの放任で育ってるでしょ。
あんなに構ってもらったことなんかなかったもの。忙しすぎる
ほどのお稽古ごとだって、あの頃のあたしにとっては憧れよ」
「そんなもんかね」勝也には理解できないようだった。
「それでね、あるときあたし真澄に訊いたの。『好きなことが
思い切りできなくて嫌じゃない?』って。そうしたら真澄が
言ったわ。『あたしは麗子ちゃんみたいに綺麗で賢いわけでは
ないから、せめてちゃんと努力して女らしいと思ってもらわないと』
ってね」
「──はは──!」勝也は思わず吹き出した。
「……笑ったってことは、その言葉の意味が分かったって
ことね」
 麗子は面白くなさそうに勝也を見た。「そう。あたしには努力が
なくて、女らしくもないってことよ」
「そんな意味で言うたんかなぁ? いくつのときや? せいぜい
十二、三歳やろ」
 勝也はまだ笑っていた。
「どうかしらね。でもそこが真澄らしい──ううん、この街の
人間らしいところなのよ」
 麗子は腹立たしげだった。「大学に入ってから何人かの
女友達ができたとき、同じような思いをさせられたことが
あったわ。それでやっと気づいたの。 ああ、真澄は典型的な
京都のお嬢さんなんだわって。やんわりと、意地悪く、
それでいて少し勘のいい人間にとってはひどく落ち込むような
嫌味の言える人」
「そうかな」
「それでもあたしは彼女を嫌いにならなかったわ。代わりに
この街を嫌ったから」
 そして麗子は穏やかに微笑んで勝也に振り向いた。
「結局はそれも束の間だったけど。ここへ来たおかげで、
あんたや豊に会えたんだもの」
 勝也も小さく笑って、足元の小石を蹴った。

 

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Does Your Heart Beat For Me ③ へ

 

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無題

 世の中に完璧はなく、女の子らしいたしなみ、料理が下手で、親にかまってもらえない、才媛ゆえの劣等感。そこが麗子嬢の可愛いところ。
  • from 狼皮のスイーツマン :
  • URL :
  • 2009/09/28 (07:30) :
  • Edit :
  • Res

狼皮のスイーツマン様

続けてありがとうございます。

ひねくれているところが、また可愛い。
それもこれも、彼女の美しい容姿の賜物なのでは?
これが、そうでもない女性がひねくれたとすると・・・
ただ鬱陶しいだけとなるんでしょうね^^;
  • from みはる :
  • 2009/09/29 (01:08)

美女だけが許されるのか?

世の中には変わり者も多いのですよ。私もその一人のようです。
  • from 狼皮のスイーツマン :
  • URL :
  • 2009/09/29 (05:58) :
  • Edit :
  • Res

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