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およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

~ Ⅳ.The Shadow Of Your Smile ②  ~

 

 その夜、真澄と京都まで同行したのは豊だった。
 三が日とあって十時を回っても電車は比較的混んでいた。
 正月休みも残り少なくなり、夜の街は最後の盛り上がりを
堪能するように賑わっている。阪急(はんきゅう)京都線・
河原町(かわらまち)行き特急の最後部車両にかろうじて座席を
確保した二人は、窓に映った自分たちと周囲の乗客の姿を
ぼんやりと眺めながら黙って揺られていた。

 

「──これやったら、もっとゆっくりしてても良かったかもな」
 豊は独り言のように言った。「かえってしんどいな」
「ううん、大丈夫」
 真澄は笑顔で答えた。「萩原さんの方こそ、まるっきりの
逆方向やのに──
「いや、実は今から京都の友達と会うから、ちょうどええんや」
「今から?」と真澄は驚いた。「まさか、女の人?」
「違うよ、会社のヤツ。名古屋の支店に行ってて、今こっちへ
帰ってきてるんや」
「あ、そうなんや」
「女のコと会うんやったら、今からではちょっと遅いやろ?」
「そりゃそうね。だいいち、あたしと一緒に電車乗ってる場合や
ないわ」
「そんなことないけど──」
 豊は真顔になった。「……なあ、真澄ちゃん」
「何?」
「きみ、あのとき素面(しらふ)やったんやろ?」
「あのときって?」
「せやから、その──俺にあいつらのことをバラしたとき」
「バラしたって、そんな言い方はないんと違う?」真澄は笑った。
「いいや、あれはバラしたんや」
 と豊もにやりと笑った。「酒が回ったふりしてたけど、きみが
あれくらいの量で酔うわけないもんな」
「まあ、そういうこと」
と真澄は肩をすくめた。「まさかまだ萩原さんが知らへんかった
なんて思てなかったのよ。でも様子を見てると、どうやらほんまに
まだ聞かされてないみたいやったし──麗子と勝ちゃんが
あたしに遠慮してるのも分かってたから、それやったらこの際
あたしが言うてあげるのが一番手っ取り早いのかなって」
「そうか」
「それにどうせ、あたしが勝ちゃんとは駄目やったってことは
もう知れてると思ったから」真澄は豊を見た。「それは知ってたん
でしょ?」
「……ああ」
「いつかは分かることやもの。どうせなら早い方がいいし」
「何と言うてええのか──」豊は小さく溜め息をついた。「残念
やったな」
「しょうがないわ。麗子の方が綺麗で頭がええもの」
 真澄は窓の外を見た。「子供の頃から、こういう結果には
馴れてるの」
「それは違うって。鍋島がそんなことで女を選ぶやつやと思うか?」
「……分かってる」
「その──真澄ちゃんには悪いけど、俺は長いことあいつらを
見ててずっと思てたんや。鍋島には麗子みたいな女が合うてる
ってな。あいつ、しっかりしてるようでまるで決断力がないやろ。
つき合うてた女の子には結局そこで愛想を尽かされるんや。
最初はみんなあいつがそんな優柔不断なやつやと
思てへんから、きっと失望するんやろな。あいつにもそれが
よう分かってるし、女の子が自分のことを頼ってると思うと、
段々と重荷になってくるんや。その点、麗子には鍋島を頼る
ようなとこは微塵もないし、鍋島は麗子といるときが一番
居心地が良さそうやった」
 豊は淡々と話した。「でもそれが、二人の間に恋愛感情が
存在してないからこそなんやって思いこんでたみたいやな」
「勝ちゃん、あたしといると窮屈そうやった」
「それは真澄ちゃんのことを大事に思ってるってことの証拠でも
あるんやで。嫌われたくないんや」
「……うん」
「たぶんきみのことは──とびきり上等やけど、ちょっと触ったら
すぐに花びらが落ちてしまいそうな、そんな綺麗な花みたいに
思てたんと違うかな」
「麗子はきっとダイヤモンドね」
 真澄はぽつりと言った。「美しくて強い、宝石の中の最高級品」
「どっちが優れてるか、なんてことはないんやで。どっちが
合うてるかってことはあっても」
「そう思っとくわ」
「ごめんな、追い打ちをかけるようなこと言うて」
「ええの」
 真澄は俯いたままで笑った。「お見合いもするし──何とか
乗り越えられると思うから」
「……見合いするの」
 豊は驚いた。二十五歳の女性が見合いをすることなどごく
当たり前だし、箱入り娘で育った真澄にとっては今さらという
感じで驚くに値しないことだったが、豊はこのときとても
思いがけなく感じた。やっぱり真澄もそうなのかという、少し
惜しい気持ちになった。
「うん。そうそういつまでも親に心配かけてられへんし」
「そうやな」
「でも、誤解しんといてね」
 真澄は顔を上げて豊を見た。「駄目になったからと言うてすぐに
割り切ってお見合いできるほど、勝ちゃんのこといい加減な
気持ちやったんと違うのよ」
「もちろん、分かってるよ」
「……ほんまに、あの人が好きやったの」
 そう呟いた真澄の瞳から涙がこぼれた。
「……うん」
「今でもよ。今でもまだ──」
 真澄は言葉を詰まらせて下を向き、両手で顔を覆って静かに
泣き始めた。
 豊は前を見たまま一瞬だけ眉をひそめ、静かに長い溜め息を
ついた。
 やがて前方の出口に向かう車の列の最後尾につくと、彼は
真澄の肩にそっと手を置いて優しく言った。
「──あんなヤツ、熨斗(のし)つけて麗子にくれてやれよ」

 真澄は顔を覆ったまま、何度も首を振った。

 

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Does Your Heart Beat For Me ① 


 

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無題

中島みゆき『うらみます』で、「ふられたての女くらいおとしやすものはないんだってね」というフレーズを豊氏がやっています。わるいやっちゃ。(笑)
  • from 狼皮のスイーツマン :
  • URL :
  • 2009/09/25 (06:15) :
  • Edit :
  • Res

狼皮のスイーツマン様

返信が遅くなってすいません。

いやいや、萩原の心境はどうだったのでしょうね。
「フラれたての女は落としやすい」ですか。
私などは、フラれたては結構凶暴だと思いますけど^^;
  • from みはる :
  • 2009/09/27 (00:48)

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