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およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

~ Ⅳ.The Shadow Of Your Smile ①  ~

 

Ⅳ.The Shadow  Of  Your Smile  


 『針のムシロ』とはあんなことを言うんやな、と勝也はこの日の
ことをあとでそう思った。

 正月の三日、梅田のダイニングバーに勝也と豊、麗子、真澄の
四人が集まり、新年会が開かれた。
 これは勝也の怪我の退院祝いの時に決まっていたことで、真澄が
鍋島に失恋した今、さてどうしたものかと真澄以外の三人は
それぞれの心の中で迷いを抱いたが、それもかえって真澄に対する
不要な憐れみではないかと思い直し、また真澄からの欠席の申し出も
なかったので、結局はそのままこの日を迎えた。

 つまりは、やはり三人はこの件に関して真澄の心に寄り添うには
極めて消極的だったと言えるだろう。

 こうしてほぼひと月ぶりに四人が揃い、宴会が始まった。
 麗子と真澄は今までと何ら変わることなく仲良く振る舞っていた。
すべての事情を分かっている勝也から見れば麗子の方が真澄に
対して少し遠慮がちに接しているようにも思えたが、だからと言って
自分までがそれを気にしていては余計に話がややこしくなる。勝也は
努めて平静を装い、そしてその代わりできるだけ麗子には話しかけない
ようにしていた。
 そして豊もまったくいつも通りだった。失恋したばかりで、しかもその
相手が目の前にいるという辛い立場の真澄を特別気遣う様子も
なければ、決してその種の話題に触れることもなかった。さすがに
バツイチ、自分とは修羅場の数が違うんやろなと、勝也は勝手に
豊に感心していた。
 そして彼はまだ麗子と勝也のことを知らなかったので、その二人に
対してももちろん普段通りに接していた。

 ところが、この一見いつも通りだが実は多くの偽りに包まれた状況を
打ち破ったのは、意外にも真澄だった。

 まず、何も知らずに最初にネタを振ったのは豊だった。
「──麗子、それで結局今年も正月は一人やったんか」
「そうよ。両親はボストンだったし」
「おまえが行ったらええやないか」
「いやよ。この時期空港がどれだけ混み合うか、あんたも海外生活
してたんだから知ってるでしょ?」
 と麗子は顔をしかめた。「それにお正月って言ったって、どうせ
すぐに大学が始まっちゃうんだもの。その準備もあるから、結構
忙しいのよ」
「まったく、淋しいもんやな、おまえみたいな美人がクリスマスも
正月も一人で、仕事に追われてるなんて」
 豊は言うとちょっと意味ありげに笑った。「言うてくれたら、俺が
相手してやったのに」
 その頃になると勝也はこの状況にすっかり馴れてしまっていて、
豊がそんなことを言っても気にせずに、ただにやにや笑って聞いて
いるだけだった。
 そこで──
「あれ、何言うてんの萩原さん」
 少し酔いの回ったらしい真澄が口を挟んだ。
「麗子にそんなこと言うたら、勝ちゃんが気ィ悪うしはるよ」
「え?」

 ──遂に来たで、と勝也は下を向いて目を閉じた。

「真澄、いいのよ」と麗子も大慌てで手を振った。
「だって──」
「何やそれ?」
「何でもないのよ、豊」
 と麗子は思いきり笑顔を造った。「今の話、ほんと? だったら
惜しいことしちゃったかも」
「麗子まで何言うてんのよ。勝ちゃんの前で」
 真澄はさらに言った。潔癖性で、人一倍正義感の強い彼女ならではの
言葉だった。
「勝也? 何で勝也に関係があるの?」麗子は実に苦しそうだった。
「あれ……もしかして、あれ?」
 真澄はちょっとまずいことを言ってしまったかなと言うような表情で
三人を見回し、麗子に振り返った。
「まだ言うてないの?」
「言うてないって、何をや」豊が訊いた。
「何でもないったら」
 麗子は少し向きになりかけていた。そして斜め向かいの勝也に
鋭い視線を向けた。その目が、(あんたも何か言いなさいよ)と
言っているのが、勝也にはよく分かった。
「麗子、あたしに気なんか遣うことないのよ」真澄が言った。
「でも──」
 麗子は困り果てていた。もう一度上目遣いで勝也をちらりと見ると、
勝也はさっと目を逸らせた。……あっ、この卑怯者。
「何なんや、いったい。二人とも、さっきから何を訳の分からんこと
言うてるんや?」
 豊はそう言って隣の勝也に振り返った。「どうやらおまえがなんか
知ってるみたいやな」
「あ、俺ちょっとトイレ──」勝也は腰を上げて逃げの態勢に出た。
「逃げるなよ」
 豊はすかさず言って勝也を引き留めた。「往生際の悪いやつやな」
「……俺は別に何も言うことはないよ」
「勝ちゃん、ちゃんと萩原さんに言うたらええやない」
 真澄がにこにこ笑って言った。「麗子とつき合うことになったって」
「ええ?」豊は声を上げた。「ほんまか?」
「真澄……」勝也は溜め息混じりで呟いた。
「鍋島、ほんまか」
 勝也は肯定も否定もしなかった。今さら否定するわけにはいかない
のは重々承知していたが、かと言って呑気に「はいそうです」という
気も起こらなかった。情けない話だが、どうすればいいのかまるで
思いつかなかったのだ。
「……なるほどな」
 豊は納得したように頷いて麗子を見た。「これで分かったよ。
おまえがわざわざ仕事中の俺を呼び出してまで、意味不明の発言を
繰り返してた訳が」
「……意味不明で悪かったわね」
 麗子は吐き捨てるように言うと俯き、唇をきつく噛みしめた。どうやら
こんな形で勝也とのことが萩原に知れるのが、極めて不本意らしい。
「水臭いな、おまえら。何をそんなに躊躇(ためら)ってたんや?」
「……躊躇わへんはずがないやろ」勝也が真顔で言った。
「あ──そうか」
「あたしのことが気になってたの?」真澄が笑いながら訊いた。
「気になるわよ、当たり前でしょ?」
 麗子が顔を上げ、口調を強めた。「あたし、そんな勝手な女じゃ
ないわよ」
 麗子のその剣幕に、真澄は驚いた顔で肩をすくめた。
「あら……そうなん?」
「真澄ったら──」
 麗子は淋しそうな目で真澄を見つめた。





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The Shadow Of Your Smile ② 


 

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無題

 楽しげな宴に微妙な空間とバリア。うーっ、窒息するーっ。確かに針のむしろ。しかしなんでこのような宴が開かれたのでしょう。
  • from 狼皮のスイーツマン :
  • URL :
  • 2009/09/23 (13:23) :
  • Edit :
  • Res

狼皮のスイーツマン様

続けてありがとうございます。
宴会の動機は、ただの新年会です。彼らは毎年行っています。
今回もクリスマス前に決まっていたようです。

私も若い頃、似たような状況になったことがありますが、
(もちろん外野の立場で)本当に居心地が悪かった。
アンタらで勝手にやってよ、って感じです。

ありがとうございました。
  • from みはる :
  • 2009/09/24 (08:18)

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