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およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

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~ Ⅰ. Yesterdays  ③ ~


 
 その真澄の方は、憂鬱なんてものを通り越して、今や
悲惨極まりない心境だった。

 大学四年の秋に大阪で親戚の結婚式に出席して、
一緒だった麗子と帰りに飲み直そうということになり、
下戸の麗子が自分では相手にならないだろうからと勝也を
呼び出したのだ。
 真澄は初対面でたちまち彼に惹かれてしまった。彼の
どこがそんなに真澄の心を惹きつけたのかはそのときは
彼女自身にも分からなかったが、彼の話は以前からよく
麗子に聞かされていたし、どうやらその頃から話の中での
勝也に何となく魅力を感じていたらしい。

 そして実際に会った彼は、彼女の思ったとおりの人物だった。
 それから三年間、真澄はただひたむきに、健気に、何より
ただ一途に勝也への恋心を育んできた。そしてその甲斐あって、
彼女はとうとう勝也から昨日のイヴに一緒に過ごそうと
誘われた。
 すでに彼には彼女の気持ちが伝わっており、彼もそれに
応えようとかなり真剣に考えてくれたらしい。それで昨日を
迎えたわけだが、結果は彼女にとって──そう、悲惨極まり
なかったのだ。

 

「おまえのこと、可愛いと思うよ。確かに好きやって言う
気持ちもある。けど── どうも俺、あかんみたいや」

 勝也のこの言葉が最初だった。彼はさらに言った。
「おまえといると、何かこう、自分の弱味とか、ええ加減な
とこは見せたら あかんなって、そんなことばっかり考えて
しもて。俺にはそんなとこしかないのに」
「窮屈なんやね」真澄はぽつりと言った。
 ごめん、と勝也は下を向いた。
 勝也にそう言われて、真澄は最も恐れていた不安が現実の
ものとなろうとしていることをいち早く感じ取った。
 彼女の中で、張り詰めていた糸が誰かの手によってプツンと
音を立てて切れたのがはっきりと分かった。

「麗子でしょ」

 真澄は傷ついた自分に追い打ちを掛けるように、勝也に
彼の本心を確認させた。
「えっ?」
「勝ちゃん今、麗子のこと考えたでしょ」
 勝也は図星を突かれて項垂れ、弱々しく「ごめん」と言った。

 ──ああ、やっぱり。やっぱりね。

「麗子やったらええの」
「アホなやつやと思うやろ。今頃気がつくやなんて」
「あたしは気がついてたわ。それでも考えへんようにしてた」
 やがて真澄はその時の彼女に出来る精一杯の笑顔を造り、
抵抗する勝也を説き伏せて彼を麗子のもとへと行かせたの
だった。
 そして遠ざかっていく勝也の足音を背中で聞いたとき、
彼女の瞳はみるみる潤んできた。
 上を向き、濡れた夜空を見上げた。

「……冗談やない。また麗子に持って行かれてしもたなんて……」

 真澄はこのとき思わずそう呟いたのだった。

 しかし、あれから十八時間以上経った今は違う。確かに
勝也に対する想いはそう簡単には消えはしないが、彼が
自分よりも麗子を選んだという事実、こればかりは変えようもない。
 人の心を左右できるなんて考えるのはとんだ思い上がりだし、
麗子と勝也が九年もの間性別を越えた親友同志だったなどと
いうことは、結局は何の保障にもならなかったのだ。
 それより、早くこの事実を受け止めて、元通りに麗子を
姉妹同様の従姉として、そして勝也を貴重な男友達として、
うまくつき合っていく努力を始めるべきだ。真澄は確信を
持ってそう考えていた。

……頭の中では。

 しかし気持ちの上では真澄は、まさに昨日大失恋した
ばかりの、悲恋のヒロインだった。

 彼女は部屋のドレッサーに向かって鏡の中の哀しい瞳の
女を見つめた。
 腫れたまぶた、半月形に窪んだくま、充血した眼球……
何ともひどいものだ。
 普段の彼女はもっとチャーミングだ。手前味噌だが、割と
イケてる方だと思う。
 特に昨日の自分はそうだった。勝也との初めてのデートと
あって、お洒落にも相当の気合いが入っていた。

 それでも勝也は自分ではなく、麗子を選んだのだった。

 ──勝(かっ)ちゃん、麗子が美人やからあたしより彼女を
選んだのと違うわよね……。
 

目次 
How Long Does This Been Going On ? ① 


 

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この記事へのコメント

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本宅、福島県からのお便りです

よくある話なのだけれども、みはるさんの文章の魔力ですねえ。上質なチーズを食したような余韻がありますよ。
  • from 狼皮のスイーツマン :
  • URL :
  • 2009/09/19 (18:41) :
  • Edit :
  • Res

狼皮のスイーツマン様

こんばんは。いつもお褒めの言葉ありがとうございます。

登場人物の一人一人、誰にとっても身近にいる人物のように
とらえてもらいたい、と言う思いで書いているところもあります。
ですからあまり奇想天外なストーリーにはならないのかも知れません。
その分、会話や描写で楽しんで頂ければ幸いです。

ありがとうございました。

  • from みはる :
  • 2009/09/20 (00:31)

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