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およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

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~ Ⅰ. Yesterdays  ② ~


 俺は正しかったのだろうか、と勝也は昨日からずっと
そのことだけを考えていた。

 自分の気持ちに正直になる。何が悪い? ちっとも悪くない。
 他人はもちろん、自分にも嘘をつかずにいることなんて、
まったく理想的な生き方だ。誰もがそうありたいと願って
いるに違いない。

 ただ……問題はそのやり方や。

 デスクに向かい、今年中に片付けなければならない書類の
山を前にして、勝也は頬杖を突いて煙草をくゆらせていた。
 ベージュのコーデュロイシャツを肘のあたりまでロール・
アップさせ、年季の入ったブルージーンズをはいていた。
 肩には空砲の拳銃をおさめた黒革のホルスターを着けている。
 彼は警官だった。相棒が今休暇中で、自分も先月若い男に
脇腹と腿を刺されてつい先日ギプスが外されたばかりだった
ので、しばらくはこうしてデスク・ワークにつくことにしていたのだ。
 それにしても、さっきからまったくと言っていいほど捗(はかど)
っていなかった。

 


「──巡査部長、昨日のデートはうまく行かなかったん
ですか?」
 後ろから話しかけられて、勝也ははっとして振り返った。
 彼の所属する刑事課の庶務を受け持つ婦警の市原香代
(いちはらかよ)が、コーヒーの入ったカップをトレイに並べて、
その一つを勝也に差し出してにっこりと笑っていた。彼女は
昨日、勝也が普段は絶対に着ないスーツに身を包んでいた
ことで、彼に女性との約束があると目敏く見破ったのだ。
「え、いや、別に……」勝也はぼんやりと答えた。
「だって、さっきからずっと考えごとしてはるじゃないですか。
昨日のお相手とはうまく行かへんかったのかなって」
「……別に、そんなことないけど」
 勝也は曖昧に首を振った。そして手首にはめた腕時計を
香代に示した。  「あ、これ、ほんまにありがとう」
 その腕時計は昨日婦警たちから勝也に送られた誕生日
プレゼントだった。 

 昨日のクリスマス・イヴは、彼にとっては二十九回目の
誕生日でもあったのだ。
 昔から、誕生日とクリスマスが一緒に来るなんてどうも
損をした気がして仕方がなかったのだが、今ではこうして
誰にでも覚えてもらえて、かえって得だとさえ思うように
なっていた。
「いいんですよ。それより、彼女にもらったプレゼントの方が
ずっと嬉しかったんでしょ?」
 香代はアーモンドのような目を柿の種のように曲げて
勝也を見た。

 ──彼女か。彼女っていうのは、どっちのことなんやろう……。

「ね、どんな女性なんですか? 鍋島さんの好みのタイプって」
「いや、そんなんはもうええから」勝也は困って手を振った。
「もったいつけてないで教えて下さいよ」
 その時、デスクに置かれた電話が一斉に鳴った。勝也は
救いの神、とばかりに受話器を取った。
「刑事課」
《──勝也、あたしよ》

 救いの神は彼にとっての愛の女神でもある、三上麗子
だった。

「……ああ」
 勝也は曖昧な返事をした。そしてそばに立っていた香代を
ちらりと見上げると、香代は小さく肩をすくめて立ち去った。
《……勝也、今、構わないの?》
 麗子は普段以上にしゃがれた小声で言った。
「何やその声。二日酔いか?」
 勝也は面白そうな表情になった。「飲み過ぎたんやろ」
《誰のせいだと思ってんのよ》
 言い返した麗子の声は深刻だった。
《言っとくけど、今さらあんたと減らず口を言い合うために
電話したわけじゃないからね》
「分かってるよ」と勝也も真顔に戻った。「それで?」
《……あたしたち、いろいろ話さなきゃならないことがあると
思うの》
「ああ、そうやな」
《近いうちに会えない?》
 麗子はまるで仕事の用件を話しているようにあっさりとした
口調で言った。
《あたしの方は大学が休みに入ってるから、あんたに
合わせるわ》
「そうやな──今ちょっと仕事がたまってるし──」
《あんたまさか、その身体でもう追いかけっこしてるの?》
「心配してくれてるのか?」勝也は小さく笑った。
《当たり前でしょ。友達だって心配するわよ。生死の間を
さまよったんだから》
「……まあええか」
 勝也は言うと勝也はデスクの卓上カレンダーを覗き込んだ。
「しばらく夜勤はないし──あ、明日の昼やったらいいけど」
《いいわ。じゃあそっちに行くから。何時?》
「十二時頃がええかな」
《分かった。じゃ、河向こうの美術館の前で待ってるから。
お邪魔したわね、仕事続けて》

 受話器を戻した勝也は小さく溜め息をつき、呆れたように
首を振って独り言を呟いた。
「……色気も何もあったもんやないな」

 そして勝也は新しい煙草に火を点けると、今度は真澄の
ことを考え始め、ひどく憂鬱な気分になった。


目次 へ                             
Yesterdays ③ 



 

 

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気分は朝ドラ

 おはようございます。
 また、ぐいっ、と世界に引き込まれました。
 続朝ドラの感覚で1話ずつ読ませていただいてます。 こちらこそリンクしていただきありがとうございます。
  • from 狼皮のスイーツマン :
  • URL :
  • 2009/09/18 (07:26) :
  • Edit :
  • Res

狼皮のスイーツマン様

おはようございます。訪問ありがとうございます。
朝ドラですか。そんなに爽やかなもんでもないような・・・^^;
鍋島の優柔不断が全開、って感じなので。
ヤキモキしながら見守ってやってください。
ありがとうございました。

  • from みはる :
  • 2009/09/18 (08:15)

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