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およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

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~ 第四章  1(後) ~

 刑事課に戻ってくると、課長は廊下からカンウター越しに一係の
デスクで話し込んでいる高野たちを呼んだ。
「高野係長──島崎も一条警部も、ちょっと来てくれ。盗品リストと
その写真も一緒に頼む」
 一条と高野が立ち上がり、こちらへ向かってきた。島崎はデスクの
捜査資料の中からリストと写真を選び、 一足遅れてあとに続いた。
 廊下の四人は先に向かいの取調室の一つに入り、三人がやって
くるのを待った。

「──何です? 何があったんです」
 部屋に入るなり、高野が訊いてきた。鍋島と芹沢の二人はともかく、
庶務係の香代までが一緒なのが 不思議でならない様子だった。
「昨日の殺しの被害者(ガイシャ)が、そっちの盗品(ブツ)を身につけてた」
「何ですって?」
 中央のデスクを挟んで課長の向かいに座った一条が思わず身を
乗り出した。 「どこで手に入れたんです?」
「それ、何の宝石ですか?」
 入口付近に立った島崎が詰め寄るように訊いた。
「宝石やない。プラチナのペンダントや」
 課長は言うとポケットから例の写真を取りだして机に置いた。高野、
島崎、一条の三人は一斉に覗き込んだ。
「島崎さん、宝石店に出回った盗品の中に、こんなのありましたっけ?」 
 一条が島崎に振り返って言った。
「いや、全部何らかの石が付いてたはずや。リストを確認したら
分かる──」
 島崎は持っていた捜査資料をデスクに置き、がさがさと掻き回し
始めた。
「出回ったものじゃありません。横浜の宝石店の被害リストの中に
あったんです」
 香代が言って、島崎と一条は彼女に振り返った。
「それ、本当なの?」
「ええ。間違いないと思います。確認してください」
「──あった、これや。プラチナのオープンハート」
 島崎が資料の中から一枚の写真を取り上げ、西端千鶴の遺体の
写真の横に置いた。全員が身を乗り出した。
 両方の写真に写っていたペンダントは、どうやら同じもののよう
だった。 
 誰もが写真を見つめたまま、しばらくのあいだ黙り込んでいた。
「──デザインは同じだけど、モノとしては別ってことじゃないんですか」
 ようやく芹沢が口を開いた。「ほら、同じブランドの同じ商品とか」
「いや、これは──店のオリジナルやと書いてある。つまり、この店
だけで売られてた商品ってことや」
 島崎がリストを見て言った。
 課長は眉間に深く皺を寄せて俯いた。「と言うことはやな、つまり
被害者はこれを──」
「犯人から直接手に入れた」
 五人の刑事が、ほぼ同時に言った。
「……そう言うことやな」
 あって欲しくないことが起こってしまい、聞きたくない言葉を聞いた
ときのように、課長は諦めがちに言うと溜め息をついた。
「じゃあ、通り魔殺人も宝石強盗犯の仕業ってことになるのかしら?」
 一条は言って隣に立った芹沢の顔を見た。
「目的は?」
「上手く言って盗品を売りつけたものの、正体がバレたとか」
「どうだろうな。それなら売ったブツをそのまま遺体に残しておくか?」
「殺しの犯人が宝石強盗犯からブツを手に入れて、それをダシに
女の子を誘いだしたとも考えられるんやないか?」鍋島が言った。
「それも言えるわね」
「だとしたら、最初に殺された女子大生にもそれらしい遺留品があった
ってことか?」島崎が訊いた。
「いや、少なくとも殺されたときには身につけてませんでした」
「ほな家に残ってる可能性もあるわけや」
「けどそれだったら、ブツをダシに誘い出されたってことにはならねえ
って」
「うーん、繋がりがあるのかないのか……」島崎は腕を組んだ。
「ただの偶然かも知れんしな。極めて確率は低いが」と高野。
「でも、少なくともこっちの事件の手がかりにはなりそうよ」
 そう言うと一条は鍋島と芹沢の二人を見た。「ねえ、その被害者の
周辺を洗うなら、あたしも同行させてもらえないかしら。どこでその
ペンダントを手に入れたのか知りたいわ。どっちが行くの? それとも
他の誰か?」
「俺だけど、でも──」芹沢は高野に振り返った。
「警部のやりたいようにさせてあげてくれ」
 高野は言うと、課長に振り返った。「構いませんよね、課長?」
「ああ、良かろう。帳場の連中には適当に言うとく」
 芹沢は最後に鍋島の顔を見た。その目は、必死で助けを求めていた。
 しかし鍋島はにやりと笑っただけだった。

 その時、入口そばのデスクに置いた内線の電話が鳴った。香代が
取り、すました声で応対に出た。
「──はい、ちょっとお待ちください」
 香代は受話器を手で覆って刑事たちに振り返った。「受付から
ですけど、鍋島さんにお客様だそうです。ナカオオジさんとおっしゃる
男の方ですって」
「ナカオオジ?」と鍋島は首を傾げた。「……知らんな。この忙しいのに
誰やろ」
「どうします? 帰っていただきますか?」
「行ってこいよ。俺は警部とご一緒させてもらうから」
 芹沢がわざとらしく言った。
「あ……ああ」
 鍋島は頼りなく答えると香代に言った。「ロビーで待っててもらうように
言うてもらえるかな」

 刑事部屋に戻ってスタイリング・ローションで髪を整え、鍋島は一階の
ロビーへと向かった。昨日の顎の痛みはまだ残っており、口許にも
昨日よりは小さくなってはいるもののまだ絆創膏が貼ってあった。
服装も、着古したパーカーにくたびれたTシャツ、色褪せたジーンズ
といういつもながら情けないありさまで、こんな日に初対面の、しかも
得体の知れない人物と会うのは嫌だった。女でなかったのがせめて
もの救いやなと、鍋島は重い足取りで階段を下りながら考えた。

 ロビーに出た鍋島はあたりを見渡した。
「鍋島巡査部長」
 受付の婦警に声を掛けられ、鍋島はそちらを向いた。婦警はロビーの
中央に置かれた公衆電話のそばに立っている男を手で示した。
 鍋島は男に近づいていった。身長180cmセンチくらいのがっしりとした
体格で、黒のポロシャツにベージュのパンツをはき、腕には同系色の
ジャケットを掛けていた。縁のない眼鏡を掛け、人懐っこそうな瞳を
レンズの奥から覗かせている。年齢は三十歳前後と思われた。
そして、彼の方も鍋島の顔を知らないらしく、こちらに向かって歩み
寄ってくる気配はなかった。
「──あの、ナカオオジさんですか」
「あ……」
 男はじっと鍋島を見つめた。明らかに驚いているのが分かった。
《こいつが刑事か?》とでも思っているのだろうと鍋島は考えた。
「刑事課の鍋島です」と彼は自己紹介をした。「失礼ですが、
どちらの──」
「どうも、お忙しいところを申し訳ありません」
  と男は頭を下げた。「中大路寛隆(なかおおじひろたか)と言います。
こちらへは、三上麗子さんに教えていただいて参りました」
「麗子に……?」
 鍋島はぼんやりと呟いた。


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第四章 2(前) へ

 


 

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おはようございます。目が覚めましたので

宝石窃盗犯が、女子大生殺しの遺体に遺留品として宝石を。
間抜けすぎる状態。しかしウラがありそう。カルト?
憶測が……。

久しぶりに麗子嬢の名前があがりました。知り合いの小父さん?
新たな展開がこちらかも。
  • from 狼皮のスイーツマン :
  • URL :
  • 2011/02/16 (00:31) :
  • Edit :
  • Res

狼皮のスイーツマン様

確かに間抜けかも、ですね。
今後の展開を見守っていただければ。
  • from みはる :
  • 2011/02/18 (22:46)

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