忍者ブログ

およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

~ 第六章  1(後) ~


「ところで話は変わりますが、お二人の離婚の原因をお聞かせ
願えませんか」
「浮気ですよ」山崎はさらりと言ってコーヒーを飲んだ。
「それは、山崎さんの?」
「さあ、どっちなんでしょうね」
「あの、詳しくお話しいただけませんか? ちょっと分かりづらい
もので」
「でしょうね」と山崎は笑った。「刑事さんはお二人とも、まだ
お若いから理解されにくいと思いますよ」
 二人はちらりとお互いの顔を見て、苦笑いをした。山崎の
一つ一つにもったいつけた話し方が、二人には鼻につき始めて
いたのだ。どうでもいいから早く喋っちまえよと、芹沢は喉の
あたりまで出かかった言葉を呑み込んだ。
「──八年前に結婚して、最初の四、五年はうまく行っていました。
お互い仕事を持っていて、子供もどうしても欲しいというわけでは
ありませんでしたから、二人でも結構愉しかったんですよ。それが
……どう言うんですかね、マンネリってやつですか。お互いの
やることなすこと、いちいち気に掛かるようになってきたんです。
それも、ある時期突然」
「それは、どちらからともなく?」
「どっちかって言うと、彼女の方からでしょうね。私が比較的家の
ことにマメな方なんで、仕事を持つ彼女にとっては、助かると
言えば助かるけど、逆にプレッシャーに感じることも多かったんじゃ
ないですか」
「じゃあ、田中さんが先に浮気を?」
「いえ、それがどっちだったのか、今でもはっきりとは分からない
んです。自分が浮気をしているときって、女房にバレているか
どうかは気になっても、彼女にもそういう相手がいるかどうか
なんて、そんなこと考えないもんですよ。でも去年の秋に
私の方から離婚を切り出したときには、彼女にも男はいたようです」
「それじゃ、離婚は円満に成立したんですね?」
「ええ、まったく円満でしたよ。身内からはいろいろと言われましたが、
すべての話し合いが終わるのに一ヶ月も掛かりませんでした」
「そうすると、山崎さん側には田中さんに対して何の不満もない
わけですね?」
 芹沢の言葉に山崎の顔が曇った。「だから言うてるでしょう。
私にはちゃんとしたアリバイがあるって」
「いえ、あなたを疑ってるんじゃありませんよ。ご存じかも
知れませんが、田中さんを殺害した犯人は、先に起こった
二件の事件にも関係していると考えられています。その中の
一人が、どうも逆恨みによって被害に遭ったとみられて
いるもので……田中さんの場合も、山崎さんご本人でなくても、
お知り合いの誰かが何らかの理由で田中さんか、もしくは
山崎さんを恨んでいたとして、それで田中さんを──」
「冗談やないです。そんなことあり得ませんよ。いくら離婚が
まだまだ世間的にマイナスイメージを持たれているからって、
それで殺人事件にまで絡んでると思われるなんて。ひどい
偏見じゃありませんか。心外です」
 山崎はひどく憤慨していた。
「気に障られたのなら謝ります。これが仕事なもので」
 鍋島が言った。仕事でなかったら、誰が他人の離婚沙汰になんか
興味を持つものか。
「……そうでしたね」と山崎は小さく溜め息をついた。「それやったら、
向こうの方やないんですか」
「向こうとおっしゃいますと?」
「耀子の相手には、家庭があったみたいですよ」
「なるほど。それだったら彼女が恨みを買ってることもありうる
わけだ」
「あの、その相手のこととか、ご存じありませんか? 山崎さんに
お訊きするのも気が引けるんですが」
 鍋島が言いにくそうに山崎の顔を見た。
「分かりますよ」と山崎は笑った。
「本当ですか」
「ええ、確か──丸山(まるやま)って男ですよ。四十過ぎで、
ミナミで喫茶店か何かやってるらしいです。離婚するとき、
私が耀子にその男と結婚するのかって訊いたら、今はまだ
できないって言うてました。何でも、店がうまく行ってなかった
らしくて、その金策に回ってるとかで」
 ここでようやく金のにおいがしてきた。殺人には必ずと言って
いいほど絡んでくる用件だ。
「そのお店の場所とかはご存じありませんか」
「知ってます。地下鉄の日本橋駅を上に出てすぐの──
『みどり』って言う店でした。みどりは『美しい』という字に
登山の『登』、それに利益の『利』だったと思います」
「よく覚えてらっしゃいますね」
 山崎は少しバツが悪そうにはにかんだ。「……私も、いやらしい
って言うんでしょうかね。自分にも浮気相手がいるくせに、
別れ話が進み出すとなぜだが女房の男のことがどうも気になり
始めて、一度こっそり行ってやろうと思ったんです。それで耀子に
何気なく訊いたことがあったんですよ。結局は行かずじまいでしたが」
「田中さんもよく教えてくれましたね」芹沢が言った。
「お互いに別の相手がいたと分かって、私も彼女も実に
あっけらかんとして離婚に臨みましたからね、訊けば何でも
教えてくれましたよ。とは言っても、何から何まで訊いたって
わけではありませんが──あ、そういやその男、もしかしたら
もう大阪にはいないかも知れませんよ」
「と言うと?」
「金の工面をしに横浜へ行ってたはずやから。もうそっちに
移ってるかも知れません」
「横浜へ?」と二人の刑事は同時に声を上げた。
「ええ。でも分かりませんけど。もう半年も前のことですから」
 山崎は二人の過剰な反応に驚いたらしく、急に自信なさげに言った。
 鍋島は慌ててポケットから宝石をさばきに天満の蓉美堂に
現れた男のモンタージュ写真を出し、山崎に示した。
「その丸山って男、見たことあります? この男と違いますか?」
「ちょっと失礼」
 ただごとではなくなってきたのが山崎にも分かってきたらしく、
彼も神妙な様子で写真を手に取った。「……ええ、この男です」
「間違いありませんか?」
「ええ。一度、耀子を送ってここのそばまで来たのを偶然
見掛けましたから。確かにこの男でした」
 鍋島は呆然と芹沢に振り返った。
「……ああ。何となく分かってきた」
 芹沢は山崎が返してきたモンタージュ写真を眺めながら答えた。 




目次

第六章 2 へ
 

ランキングに参加しています。お気に召しましたら、クリックお願いします。

↓↓↓↓↓

にほんブログ村 小説ブログ ミステリー・推理小説 投票

人気blogランキング 投票 

カテゴリ別小説ランキング 投票

人気ブログランキング!ブログ王 投票  

拍手[0回]

PR

この記事へのコメント

Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
管理人のみ閲覧できます
 

この記事へのトラックバック

トラックバックURL

カレンダー

08 2017/09 10
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

カウンター

ビジター

最新コメント

[05/19 スイーツマン]
[05/17 スイーツマン]
[05/17 スイーツマン]
[06/24 奄美 剣星  (旧称/狼皮のスイーツマン)]
[05/02 maki]
[10/11 かなる]
[08/18 狼皮のスイーツマン]

お知らせ

日々の暮らしに追われ、長期に渡り記事の更新が滞っている状態です。申し訳ありません。



「佳日の紫丁香花 (ライラック) 〜For Your Splended Wedding〜」完結しました。

★Web拍手ボタンを各記事の下部に設定し直しました。ホメてやろう!という方はクリックお願いします。

縦書きでも読めます




Amazonでましゃ

rakuten

プロフィール

HN:
みはる
性別:
女性
趣味:
映画、読書、福山雅治
自己紹介:
好きな作家 
Ed McBain
Pete Hamill
宮部みゆき 
高村薫 
東野圭吾

好きな役者 
ブラピ 
佐藤浩市

好きなオトコ
福山雅治
        

Nicotto Town

バーコード

Copyright ©  -- およそ【文学】とは言い難いけれど。 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Photo by momo111 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]