忍者ブログ

およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

~ 第五章  5(前) ~

 
      5 

 その頃、鍋島はアパートの自室で芹沢と遅すぎる夕食を摂って
いた。
「美味い。こういう料理でメシ食うの久しぶりだよ。生き返るぜ」
 ダイニングテーブルの席に着き、炊き立ての米がよそられた
茶碗を手に持った芹沢は、テーブルに並べられた純和風の
料理を口に運びながら幸せそうに言った。
「──なあ、何で俺がおまえにこんなことせなあかんのや」
 キッチンのカウンターに大きな皿を置き、その上にキッチン
ペーパーを敷きながら鍋島が言った。
「俺はおまえの嫁さんと違うで」
「たまにはまともなメシ食わせてやるって言ったのはおまえだろ」
「俺は冷蔵庫の残りもんでも良かったら食べさせてやるって
言うたんや。こんな時間になって揚げ物なんか作らせんなよ」
「その肉だって冷蔵庫の中にあったんだろ。おまえが『これは
しその葉を巻いて揚げたら美味いんや』って言ったんだぜ」
「十一時やぞ」
「いいじゃねえか。明日はやっと半日休みもらって、昼からで
いいんだしよ」芹沢はなおも言った。「ええから、はよ作ってえな」
「下手くそな関西弁を使うなていつも言うてるやろ」
 鍋島はふてくされたように吐き捨てると、長い菜箸でフライ鍋の
中から小麦色に揚がった豚肉のしそ巻きを取りだして皿に盛った。
 中学一年の時に母親を亡くし、四歳下の妹が成長して彼と交代
するまでずっと家族の食事を作っていた鍋島は、必然的に今や
その腕はたいしたものだった。仕事柄、普段は外食が多くて毎日
自分で作って食べるというようなことはないが、それでも気が向けば
あり合わせの材料でたちまち何でも作ってしまう。今夜も帰ってきて
から一時間ほどの間にうざくあえ、厚揚げと茄子の含め煮、そして
この豚ロースのしそ巻き揚げを手際よく作り、連れてきた芹沢を
感激させているのだった。

「おまえ、泊まってくんか?」
 盛り付けが済んだ皿を持ち、キッチンを出てテーブルの前まで
来た鍋島は芹沢に訊いた。
「この時間になって帰れって言うのか? おまえも冷てえな」
 芹沢は言った。しかしすぐに何かをひらめいたような表情になり、
鍋島を見つめてにやりと笑った。
「……ひょっとして、今夜も麗子ちゃんとお約束かな?」
 鍋島は睨み返した。「ほんまに帰らせるぞ」
「まあ、そうとんがるなってば。女にフラれた哀れな男が、相棒に
美人の恋人がいるもんで、ちょっと僻んでみただけだよ」
「おまえが女と別れるたびにいちいちそんなこと言われてたら、
こっちはたまらんな」
 鍋島は迷惑そうに言って、缶ビールのプルタブを開けた。
「で、結婚しねえのか」
「誰が」
「おまえと彼女に決まってんだろ。何とぼけてんだよ」
「まだええやろ」
「そんなこと言ってたら、きっかけ失っちまうぜ」
 芹沢は焦れったそうに眉をひそめた。「それでなくても十年も
前からのつき合いなんだから。腐れ縁ってやつだろ、俺たち
みてえによ。そういうパターンが一番危ねえんだよ。なあなあに
なって、気がつきゃお互い年寄りになっちまってるか、そこまで
行く前に自然消滅なんてことになりかねないぜ」
「そんなもんかね」鍋島は素っ気なく言った。
「香水の移り香つけてもらってるうちが華なんじゃねえのか?」
「それはもうええって言うてるやろ」
 そのとき、玄関のチャイムが鳴り、同時に何度かドアがノックされた。
「……噂をすれば、だな」
 芹沢はほくそ笑んで鍋島を見た。
 鍋島は缶ビールを持ったまま片眉を上げた。「いや、違うて」
「照れるなよ。俺、帰ったっていいんだぜ」
「違う、あいつやないよ」
 鍋島は立ち上がると芹沢を見下ろした。「帰るなよ」

 廊下を通って玄関に出た鍋島は、ロックを外すとドア・チェーンを
掛けたままゆっくりと扉を開けた。
 十センチほどの隙間の向こうに立っていたのは、思い詰めたような
顔をした萩原だった。
「おまえか」
 そう言うと鍋島は廊下の奥に振り返った。「連れや」
 そして一旦ドアを閉め、チェーンを外してすぐに開けると、萩原を
迎えながら呟くように言った。
「……どうしたんや」
「誰か来てるのか?」
 萩原は廊下の奥を見た。すると、奥からタイミングを合わせた
ように芹沢が出てきた。
「どうも、こんばんわ」
「……あんたか」
「まあ上がれよ。俺ら今頃メシ食うてるんやけど」鍋島が言った。
「いや、それやったら帰るよ」
「どうして。野郎が二人でメシ食ってるだけだぜ。構わねえよ」
「けど、悪いから──」
「何かあったんか?」と鍋島は訊いた。「と言うより、あったんやろ。
おまえがこんな時間に何の前触れもなく俺んとこに来るって
いうのは、たいてい何かあったってことや」
 萩原は黙って俯いた。
「俺、遠慮した方がいいかな?」芹沢が鍋島に訊いた。
「さあ。俺に訊かれてもな」
「……ええんや」と萩原は顔を上げた。「一人より二人に罵られた
方が、ちゃんと反省できると思うから」
「何や、それ?」
「よく分からねえけど、何だかマジっぽいな」
 そう言うと芹沢は鍋島に耳打ちした。「……面倒臭せえ話は勘弁
なんだけど」
 鍋島は肩をすくめた。そのとき、萩原が大きく息を吐いたかと思うと、
ゆっくりとその場に膝を突いて座り込んだ。
「おい、どないしてん」
「──絶対に、やったらあかんことをやってしもたんや」
「何やて?」と鍋島は真顔になった。
「とにかく、上がったらどう? 話はそれからってことでさ」
「そや。おい萩原、立てよ」
 そう言うと鍋島は萩原の肩を叩いた。
 二人の言ったことを聞いているのかいないのか、萩原は立ち上がる
ことなく首を振って呟いた。
「俺……智子と……」
「え?」
「……今まで、智子と一緒やった……梅田のホテルの部屋で」
 鍋島の顔つきが途端に険しくなった。 





目次 へ
第五章 5(後) へ 



ランキングに参加しています。お気に召しましたら、クリックお願いします。

↓↓↓↓↓

にほんブログ村 小説ブログ ミステリー・推理小説 投票

人気blogランキング 投票 

カテゴリ別小説ランキング 投票

人気ブログランキング!ブログ王 投票  

拍手[0回]

PR

この記事へのコメント

Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
管理人のみ閲覧できます
 

この記事へのトラックバック

トラックバックURL

カレンダー

09 2017/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

カウンター

ビジター

最新コメント

[05/19 スイーツマン]
[05/17 スイーツマン]
[05/17 スイーツマン]
[06/24 奄美 剣星  (旧称/狼皮のスイーツマン)]
[05/02 maki]
[10/11 かなる]
[08/18 狼皮のスイーツマン]

お知らせ

日々の暮らしに追われ、長期に渡り記事の更新が滞っている状態です。申し訳ありません。



「佳日の紫丁香花 (ライラック) 〜For Your Splended Wedding〜」完結しました。

★Web拍手ボタンを各記事の下部に設定し直しました。ホメてやろう!という方はクリックお願いします。

縦書きでも読めます




Amazonでましゃ

rakuten

プロフィール

HN:
みはる
性別:
女性
趣味:
映画、読書、福山雅治
自己紹介:
好きな作家 
Ed McBain
Pete Hamill
宮部みゆき 
高村薫 
東野圭吾

好きな役者 
ブラピ 
佐藤浩市

好きなオトコ
福山雅治
        

Nicotto Town

バーコード

Copyright ©  -- およそ【文学】とは言い難いけれど。 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Photo by momo111 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]