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およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

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~ 第五章  2(前) ~


        2
 

 マンションは四天王寺の南東三百メートルほどのところにあった。
細長い十階建てで、全室ワンルームだった。
 西端千鶴の部屋は五階で、部屋を入って一番奥にあるベランダが
マンションの表通りに面しており、通りで遊ぶ子供たちのはしゃぎ声が
窓を通して部屋の中まで聞こえていた。
「──ねえ、何か見つけた?」
 十帖ほどの部屋には不釣り合いなまでの大きなクロゼットの中の
洋服を点検しながら、一条は後ろで壁とベッドの間にぴったりと
収まったラックを調べている芹沢に声を掛けた。
「そんなにすぐに見つかるかよ」
 芹沢は雑誌をペラペラと捲りながら言った。「それにしても、女って
のは何かとくだらねえものばっか大切にしまっておくんだな」
「男だってそうでしょ」
 一条は千鶴の白いジャケットのポケットを覗き込んで言った。
「何より、女は衣装と装飾品よ。彼女も相当お金をつぎ込んでた
みたいね。このクロゼットからいくらでも出てくるわ、きりがない
みたい」
「だったらこっちと代わってやろうか?」
 嬉しそうに言った芹沢を、一条は怪訝そうに見た。
「やめとくわ。あなた、捜査に何か別の楽しみを求めてるみたい
だから」
「ちぇ、つまんね」芹沢は小さく舌打ちして、ラックに向き直った。
「ねえ。彼女の交友関係はどうだったの?」
「派手でもなく地味でもなく、って感じだったらしいぜ。二十歳の時に
大阪に出て来てるんだから、まだ一年ちょっとだし」
「何か目標はあったのかしら」
「さあな。とりあえず、ってやつじゃねえのか。田舎の連中はみんな
そうさ。高校を出るか二十歳になるか、どっちかの歳になると都会に
出たがる」
「あなたはどうだったの?」
「俺は田舎者じゃねえよ」芹沢は言うと一条を見た。「ま、あんたから
言わせるとそうなのかも知れねえけど」
「まだ何も言ってないわよ」
「言わなくたって分かるさ。そういう顔してるぜ」
 一条は肩をすくめた。「どうして大阪に?」
「……まあ、いろいろあってな」
 そして芹沢は玄関のそばのキッチンへ行った。
 一条は芹沢の背中を見送りながら溜め息をつき、指紋がつかない
ようにはめていた手袋を外してバッグに直した。そして自分も表の
部屋に行くと、バッグを肩から掛けて芹沢に言った。
「あたし、ちょっとこのあたりを聞き込みに回ってくるわ」
「そっちはもう終わったのかよ」
 芹沢はシンクの上の吊り戸棚を開けながら言った。
「だいたいね。ね、いいでしょ、もしかしたら例の男はここを訪ねて
きてたかも知れないし」
「もうちょっと待てよ。そうすりゃ俺も終わるから」
「じゃ、終わったら下りてきてよ。この周辺にいるから」
「……分かったよ」と芹沢は一条を見下ろした。「ただし、少しでも
離れるときは言いに来いよ」
「分かってるわ」
 一条はにっこり笑って頷くと、部屋を出ていった。芹沢はドアの
閉まるのを見て、視線を戸棚に戻しながら呟いた。
「……マガママ」

 マンションの外へ出た一条は玄関の前でボール遊びをしている
四人の子供にじっと見つめられて、自分も微笑み返した。そして
通りの向かい側にあるマンションの一階に入っているコンビニエンス
ストアを見据えると、意を決したように歩き出した。
 するとそのとき、一条の前から俯いて階段を上がってきた男が、
擦れ違いざまに彼女の肩にぶつかった。
「きゃっ……!」
 一条はバランスを崩し、階段脇の植え込みに肘をついてもたれ
かかった。
「あ、すいません」
 男は一条に振り返り、腕を取って彼女を抱え起こそうとした。 
「大丈夫ですか?」
「ええ、平気です」
 一条はゆっくりと上体を起こし、肘の汚れを払いながら男を見た。
 二十五歳前後のフリーター風の青年で、心配そうに一条を見つめて
いた。Tシャツに汚れたジーンズをはき、スニーカーも汚れている。
黒いサングラスを手に持ち、じっと一条に見据えられているのに
耐えきれなくなったのか、さっと視線を外した。前髪の一部が金色に
染められていた。
「あなた……」と一条は呟いた。
 その言葉に男ははっとした表情になると、反射的に一条を突き
飛ばして階段を駆け下りた。一条は再び植え込みに倒れ込んだが、
すぐに立ち上がり、足元に落ちたバッグを掴んで男の跡を追った。
「ちょっと、あなた……待ちなさい……!」
 しかし男は止まるはずもなく、代わりに一条を振り返りながらも
走り出した。一条も駆け出したが、そこで急に芹沢の言葉を
思い出し、足を止めるとマンションを見上げて舌打ちした。
「ちょっと! ちょっと! 顔出してよっ!」
 一条は千鶴の部屋の窓に向かって叫んだ。
「ねえ、聞こえてる? あたしよ! 芹沢くん!」

 部屋にいた芹沢はむっとして窓に振り返った。
「──何が芹沢くんだ、あの女……」
 ベランダに出て、白い塗料の塗られた高い柵越しに下の通りを
見下ろすと、一条が二十メートルほど先を行く男を追いかけていた。
「早く下りてきて! あの男よ! 応援呼んで!」
 一条は芹沢を見上げて叫んだ。
「だから一人で行くなって言ったんだよ……!」
 芹沢は部屋に戻り、持っていた千鶴の貯金通帳をベッドに投げ
捨てて玄関に向かった。部屋を出ると廊下を走ってエレヴェーターの
前まで行き、コールボタンを押した。エレヴェーターは一階で止まって
いたらしく、1のボタンが点灯すると長い時間を掛けて2に移動した。
芹沢は何度もボタンを押したが、やがて待ちきれなくなり、廊下の
突き当たりまで走って螺旋階段を駆け下りた。

 地上へ降り立つと同時に芹沢は通りの中央まで出た。が、通りには
すでに一条と男の姿はなく、玄関の前で子供たちが呆然と立ち尽くして
彼を見ているだけだった。
 子供たちはすぐに「あっち! あっち!」と口々に叫んで芹沢の
後ろを指差し始めた。
「分かってるけど……その先はどうなったんだよ……」
 芹沢は独り言を呟きながら走った。すぐに四つ角に出て、通りの
両側を見回したが、それらしい姿はなかった。
 仕方なく引き返した。そして一条の服の色を思い出した。そう、
ペパーミント・グリーンだ。あの色なら目立つはずだ。乗ってきた
車のところまで来ると、開いている窓から手を入れ、無線機の
マイクを掴んだ。



目次
第五章 2(後) へ 




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