忍者ブログ

およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

~ 第五章  1(後) ~


 そのとき、デスクの電話が鳴った。課長は救われたとばかりに
受話器を掴み取り、前に立った三人の若者を迷惑そうに見上げ
ながら応対に出た。
「もしもし? ああ、はいはい──」
 三人は黙って課長の電話が終わるのを待っていた。
「──ああ、それがご存じの通り、うちも今手一杯なんや──」
 課長は電話の相手に言った。「そっちの事情も承知やけど」
 そして課長はちらりと鍋島を見上げた。鍋島は相変わらずむっと
した表情で煙草を吹かしており、課長と目が合ってもその態度を
変えようとしなかった。
 そんな鍋島を見つめていた課長は、突然何かをひらめいたような
表情になり、それから電話の相手に言った。
「──分かった。そっちにもいろいろ世話になってるし、この際
協力させてもらうわ。──いや、かめへん。お互い様や。ああ、
そしたらすぐに行かせるよ」
 課長は電話を切った。そして大きく咳払いをすると、鍋島に言った。
「四課がおまえに応援に来て欲しいと言うてきた。今すぐ本部へ
行ってくれ」
「ええ? でも──」
「どうしてですか? こっちの今の事情じゃ無理ですよ」 
 と芹沢がデスクに身を乗り出した。
「今から四課が石龍(いしたつ)組のガサ入れをする。大掛かりな
賭場が開かれてるって言うタレコミがあったらしい。十分な内定も
済んで、いよいよ踏み込むそうや。それで鍋島にも来て欲しいって」
「撃ち合いになるかも知れないからですか?」
「ああ。石龍組の場合は大いにその危険性がある」
「だったら機動隊で十分じゃないですか。今はこっちだって応援が
欲しいくらいなんですよ」芹沢は食い下がった。
「もちろん、機動隊からも出すそうや。けど、主要メンバーの中に
面の割れてへん鍋島を入れたいらしい。うちも四課には借りがある」
 課長はデスクに両肘を突いた。「あっちは鍋島の腕が欲しいんや。
相当お気に入りみたいやな」
 芹沢は諦め顔で溜め息をつき、鍋島に振り返った。
「おまえ、そのうち四課に引き抜かれちまうぜ」
「それに──捜一の連中にええカムフラージュができる。所轄は
のんびりやってるなと思わせるのにちょうどええ」
「課長が行けって言わはるんなら、俺はいいですよ」と鍋島は
肩をすくめた。「引き抜かれるのはごめんやけど」
「ああ。悪いが頼むわ。済んだらすぐに戻ってこいとは言わん。
何ならちょっと息抜きして、それから帰ってきたらええから」
「分かりました」
 鍋島は頷き、芹沢に振り返ると微かに笑みを浮かべて言った。
「まあ、そう言うことやから」
「……悪運の強いやつだな」芹沢は面白くなさそうに呟いた。
 鍋島はちらりと一条を見ると、何も言わずに立ち去った。

 彼が出ていったあとで、一条はぽつりと言った。
「何だか、気が削がれちゃったわ」
「ああ、肝心の話の方やな」
 と課長は一条に向き直った。「一条くん、とりあえずここは私に
采配を任せてくれへんか」
「ええ、結構です。お願いします」  
「よし、そしたら今から芹沢と一緒に西端千鶴のマンションへ行って、
カレーハウスを訪ねてきた男の手がかりを探してくれるか。昨日、
遺体を引き取り来た両親が、篠山での葬儀が終わったらマンションの
部屋を片付けるから、調べることがあったらそれまでに済ませて
欲しいと言うてきた」
「分かりました」
 一条が芹沢を見ると、彼は冷ややかな眼差しで彼女を見下ろして
いた。そして彼は言った。
「何かと不満はあるだろうけど、そいつはお互い様だからな」
「分かってるわ」

 刑事部屋を出た二人は廊下を階段へと向かった。
 一条は白いバッグの中を覗いて女性捜査官専用の小型拳銃が
入っているのを確かめると、すぐに閉めて肩に掛けた。そして芹沢に
後れをとらないよう、早足で彼を追いかけた。
「──ねえ、彼ってそんなに腕がいいの?」
 一条は前を見たままで芹沢に訊いた。
「鍋島のことか」
「ええ」
「とりあえず本部ではそれで名が通ってるみたいだぜ」
 芹沢は言った。「所轄の刑事が射撃の腕を買われて応援を頼まれる
なんて、聞いたことねえだろ」
「そうね」
「柔道や剣道じゃ体格で損するから、その分射撃の腕を磨いといた方が
いいと思って練習したって本人は言ってるけど、俺はそうは思わねえな。
ありゃ天性の才能だ。勘がいいのさ」
「人は見かけによらないものね」
 まあな、と芹沢は軽く笑ったが、すぐに真顔に戻って一条を見た。
「それに、あいつがさっきみたいにキレるのもまずないことだぜ」
「……そう」と一条は芹沢を見た。「でも、あなたは怒らなかったわ」
「俺はあいつほど真面目じゃねえから。あんたが何を言おうとどうでも
いいのさ」
 そう言うと芹沢は階段を下りきったところで立ち止まり、一条に振り
返った。
「──と言うより、あいつよりは少しだけあんたに馴れたってことかな」
「何とでも言えばいいわ。どうせあたしはここの人たちから疎まれてる
のは分かってるから」
 一条がそう言うのをじっと見つめていた芹沢は、やがて背を向けて
歩き出した。
「……だったらもうちょっと可愛げのあることが言えねえのかよ」
「え? 何? 何か言った?」
「何でもねえよ」
 芹沢は振り返らずに吐き捨てると、すぐに声を小さくして呟いた。
「……ったく、何で俺ばっかあの女の相手しなきゃならねえんだ」
 彼は玄関に出て、駐車場に向かった。
「……頭に来る連中ばっかりだわ」
 一条は悔しそうに唇を噛んだ。

 

目次
第五章 2(前) へ
 



ランキングに参加しています。お気に召しましたら、クリックお願いします。

↓↓↓↓↓

にほんブログ村 小説ブログ ミステリー・推理小説 投票

人気blogランキング 投票 

カテゴリ別小説ランキング 投票

人気ブログランキング!ブログ王 投票

拍手[0回]

PR

この記事へのコメント

Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
管理人のみ閲覧できます
 

おはようございます

緊迫感のなかキャラが際立ってきました。さすがです。

鍋島の射撃の才能。後半に生きてくるのでしょうけれど、好人物なだけに人を撃ったりしたら再起不能になるくらい凹んでしまうような気もします。
  • from 狼皮のスイーツマン :
  • URL :
  • 2011/08/06 (06:15) :
  • Edit :
  • Res

狼皮のスイーツマン様

いつもありがとうございます。
鍋島の射撃上手…今のところあくまで一つの「特技」ですね。
応援に行くことで、それを自覚しているのでしょうが…
果たして「実践」することが出てくるのでしょうか。

訪問ありがとうございました。
  • from みはる :
  • 2011/08/07 (13:31)

この記事へのトラックバック

トラックバックURL

カレンダー

09 2017/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

カウンター

ビジター

最新コメント

[05/19 スイーツマン]
[05/17 スイーツマン]
[05/17 スイーツマン]
[06/24 奄美 剣星  (旧称/狼皮のスイーツマン)]
[05/02 maki]
[10/11 かなる]
[08/18 狼皮のスイーツマン]

お知らせ

日々の暮らしに追われ、長期に渡り記事の更新が滞っている状態です。申し訳ありません。



「佳日の紫丁香花 (ライラック) 〜For Your Splended Wedding〜」完結しました。

★Web拍手ボタンを各記事の下部に設定し直しました。ホメてやろう!という方はクリックお願いします。

縦書きでも読めます




Amazonでましゃ

rakuten

プロフィール

HN:
みはる
性別:
女性
趣味:
映画、読書、福山雅治
自己紹介:
好きな作家 
Ed McBain
Pete Hamill
宮部みゆき 
高村薫 
東野圭吾

好きな役者 
ブラピ 
佐藤浩市

好きなオトコ
福山雅治
        

Nicotto Town

バーコード

Copyright ©  -- およそ【文学】とは言い難いけれど。 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Photo by momo111 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]