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およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

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~ 第二章  3(前) ~

 

              3
 
 
「──ほんま、けったクソ悪い女や。俺はああいうのが一番
むかつくんや」
 車の助手席で煙草を吹かしながら、鍋島は苛立った声で
吐き捨てた。
「おまえだけじゃねえ、俺だって相当頭に来てるさ。あんな女と
一緒にやらされる島崎さんと係長が気の毒だ」
「何やおまえ、顔が可愛かったらそれで充分やて言うてたんと
違うんか」
「あそこまで生意気だったら、もっと可愛くなきゃ納得できねえよ」
「よう解らんな、おまえの基準は」
「何が解らねえんだよ。こっちの事件だってそうだろう。殺られた
女の子、結構いい線行ってたじゃねえか。それがあんなに
無惨に殺されるなんて、かなり性格が悪かったとしか考え
られねえよ」
「本気で言うてるんか、そんなこと」と鍋島は笑った。
「冗談に決まってるだろ」と芹沢は投げやりに言った。「気分が
悪りぃんだよ」
「やろうな。顔が可愛いから性格が悪いなんて、ブスで僻みっぽい
女子高生の考え方や」
「はは……ん、おまえ、自分の女が超のつく美人だから、
そんなこと気にしてるんだろ」
「そんなこと──」
「心配しなくても、おまえの彼女は性格良さそうじゃないか。
ちょっと気は強そうだけど」
「……もうええ」と鍋島は煙草を消した。
 昨夜の遺体確認の時、山蔭留美子の母親は娘の変わり
果てた姿を見て愕然とし、そのあと半狂乱になり、最後は
放心状態となってしまった。
 近郊に身内は誰もいないらしく、鍋島と芹沢が母親を署から
マンションに連れて帰り、答えうる限りの簡単な質問をして
引き揚げるときも、娘を殺されたその哀れな母親を気遣って
訪ねてくるものは 一人もいなかった。
 そして今、二人はもう一度母娘のマンションを訪ねることを
命じられた。留美子の遺体は今日の昼過ぎに自宅に
戻されており、今頃通夜の準備で忙しいかと思われたが、
捜査本部も事件解決には最初の二十四時間から三十六時間が
もっとも大切な勝負時だと考えていたので、迷惑なのを承知で
話を聞くことにしたのだ。そして、それには昨日最初に母親の
応対に当たった刑事の方が彼女の心が少しでも和らぐだろうと、
鍋島と芹沢の二人を差し向けたのだった。
 時刻はあと十五分ほどで四時になるところで、夕方の
ラッシュ前で車はそれほど混んではいなかったが、マンションの
そばまで来ると周辺の道路は違法駐車の車両で溢れていた。
芹沢は署に戻ったら真っ先に交通課に言ってこの付近一帯を
残らず取り締まらせると息巻いて迂回し、少し離れたところに
車を停めてマンションまで歩いた。
 マンションの三階の部屋は朝とは様子ががらりと変わり、
今夜七時から近くの会館で行われる通夜の準備を手伝いに
来た近所の知人や葬儀屋たちでごった返していた。二人が
玄関に現れたとき、ちょうど前の廊下を通り掛かった葬儀屋の
社員が足を止めた。
「はい、何か?」
 銀縁の眼鏡を掛けた社員は、極めて冷静な口調で言った。
「お忙しいところを申し訳ありません。西天満署刑事課の者
ですが」
 鍋島は警察手帳を広げて言った。
「ああ、警察の方」
 社員は軽く頷き、部屋の奥に振り返りながら言った。
「……奥さんにご用ですね?」
「ええ。こんな時にご迷惑だとは思うんですが、良ければ
お話を伺いたいんです」
「ちょっとお待ちください」社員は廊下を奥へと引っ込んだ。
 二人は黙って玄関に立っていた。時折前を横切る喪服姿の
知人たちは、二人を見て怪訝そうな表情になったり、逆に
丁寧に頭を下げたりして通り過ぎていった。
「──あの、すいません」
 廊下の奥から出てきたのは、さっきの社員でも母親でもなく、
被害者と同じ年頃で、黒いミニ丈のワンピースを着たノー・メイクの
背の高い少女だった。
「はい?」と鍋島は顔を上げた。
「あの、お母様は今、ちょっと伏せっておられて……こんな
ときですし、お話はご遠慮いただきたいと──」
 少女は申し訳なさそうに言って二人を見た。
「そうですか……」
 鍋島は芹沢に振り返った。こう言うとき、つい情に絆(ほだ)されて
押しが弱くなってしまうのを彼は自分でもよく分かっていた。
だからいつも冷静な芹沢に判断を仰ごうとしてしまうのだ。
 そんな鍋島の気持ちを知ってか知らずか、やはり芹沢は
落ち着きを含んだ声で言った。
「失礼ですが、ご親戚の方か何かですか?」
「いえ、留美子ちゃんの同級生です」
「じゃあ少しお話を伺いたいんですが。お手間は取らせません
から」
「え、はい──」
 少女は周囲を見渡すと、再び二人に向き直った。「それじゃ、
私はもう帰りますから、外で」
「お願いします」

 マンションを出た三人は、少女が地下鉄の駅へ行くと言うので
南に向かって歩き出した。
「──一度家へ帰ってから、他のお友達と一緒にお通夜へ
来るつもりなんです」
 少女は俯いたまま言った。
「留美子さんとは仲が良かったんですか?」鍋島が訊いた。
「ええ。実は受験の時に席が隣同士で──受かるといいねって
話してたら、運良く二人とも合格して。クラスも一緒になったし。
それからずっと仲良くしてました」
「昨日は彼女にお会いになりましたか?」
「いいえ、会ってません。日曜でしたから」
「じゃあ彼女が昨日バイトでどこのデパートに行ってたかは
知らない?」
 と今度は芹沢。
「土曜に電話で話したとき、ミナミへ行くって。でもデパートの
名前までは」
  と少女は首を振った。
「──心斎橋(しんさいばし)の大丸か、難波(なんば)の高島屋か」
  鍋島が呟いた。
「バイトって、何のバイト?」
「日曜とかに時々、デパートのおもちゃ売場でイベントやってる
でしょう。あれです。あれでいろんなデパートへ行くんです」
「ってことは、メーカーかイベント会社に雇われてるってこと?」
「ええ、メーカーです」
 少女は頷き、少しだけ明るい眼差しになって言った。「次の
質問はこうでしょう?『そのメーカーの名前は分かりますか?』
──違いますか?」
「ええ、そう」
「それはよく覚えてるんです。『ラ・コルーニャ』っていう会社です。
高級レストランみたいでお洒落でしょって、留美子ちゃんが
言うてたから」
「外資系かな」
「さあ、どうかな。でもゲームソフトとかそんなんじゃなくて、
縫いぐるみの会社みたいでした」
 そう言うと少女は哀しい顔をして首を振った。「こんなことに
なるんやったら、昨日のこともっと詳しく聞いとけば良かった……」
「きみが責任を感じることはないよ」
「ただ、デパートの閉店時間はたいていどこも七時半か八時やろ。
それから後かたづけをして帰っても、そんな遅くにはならへん
はずや」
 玩具メーカーの名前を手帳に書き込みながら、鍋島は言って
芹沢に振り返った。
「バイト仲間と飲み会にでも行ったんかな」
「デートってのも考えられる」
「彼女、つきあってた男性はいましたか?」
「いなかったと思うけど……」
「遊びは派手な方だった?」
「いいえ、全然」少女はきっぱりと言った。「彼女、生まれて
すぐにお父さんを亡くして、それからずっとお母さんと二人暮らし
やったそうです。親戚とかとも縁が薄くて、二人きりで一生懸命
生きて来たんやて言うてました。せやから大学に入ったからって
他の子みたいに派手に遊んだり、彼氏作ったりって、 そんな
浮き足だったことに夢中になるタイプと違いました。携帯電話かて、
大学入ってバイトも始めたからお母さんとの連絡用に持つように
なったって」
 鍋島は得意げな顔で芹沢に振り返った。「ほらみろ。やっぱり
おまえの基準はおかしいんや」
「……だから冗談だって言ったろ」
「何ですか?」と少女は怪訝そうに二人を見た。
「いえ、こっちの話」と鍋島は小さく笑った。「そしたら、彼女が
誰かにつけ回されてるなんてことを聞いたことはありません
でしたか?つけ回されてるとまでは行かなくても、その気の
ない相手に言い寄られてるとか」
「さあ。聞いたことありませんし、そういうこともなかったと
思います」
「そうですか」
「あの、すいません、私はここで」
 地下鉄の入口の前で少女は立ち止まり、二人に向き直った。
「あ、どうぞ。どうもありがとう」
「失礼します」
 少女はぺこりと頭を下げると、二人に背を向けて階段を
軽い足取りで下りていった。
 残された二人は少女の姿が階段を左に折れて見えなく
なるまで、入口に立ったまま見送った。

 

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第二章 3(後) 

 


 

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寄りましたよ

事件の聞きこみ。惨劇の一角が明らかに。スポットを当てるところで主人公・準主人公にかけあいをさせて、「きつさ」を和らげる計算。うまいです。
  • from 狼皮のスイーツマン :
  • URL :
  • 2010/04/09 (22:22) :
  • Edit :
  • Res

狼皮のスイーツマン様

いつもありがとうございます
二人の刑事の掛けあいはまぁ、いつもの他愛のない
ウダ話ですが
確かに、重くならないための中和剤になってるかも
知れませんね

今後ともよろしくお願いします^^








  • from みはる :
  • 2010/04/10 (11:53)

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