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およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

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~ 第二章  2(前) ~


           2
 
 
 夜勤中に女子大生の刺殺死体と遭遇してしまった鍋島と
芹沢の両刑事は、明け方近くに西天満署に設置された事件の
捜査本部にそのまま入ることになった。刑事課一係からは
彼らの他に二名の刑事が本部入りした。
 宿直の勤務時間は朝の八時までだったが、殺人事件の
担当になった以上は時間が来ればハイ上がりというわけには
いかないことはよく分かっていた。しかし引き続いて丸一日の
勤務が始まるとあっては、いくら刑事の中では若い方だと
いっても、さすがにちょっときついと主張しても良かったかも
知れない。
 それでも二人はたいした愚痴もこぼさず、と言うよりむしろ
そんな職業を選んでしまったことをあっさりと諦めることにして、
そのかわり第一回目の捜査会議が終わったあとで少し長めの
休憩時間をもらうということでとりあえずは納得したのだった。

 捜査会議では、司法解剖や現場検証の結果と、被害者の
身辺について判っている限りの事実が報告された。要約すると、
次のようになる。

 司法解剖結果──死因は鋭利な刃物で胸部、背中、右大腿部の
三箇所の刺し傷を受けたことによる失血死(血液型はA型)。
激しい抵抗の跡は見られず、生前の性交渉の痕跡も無し。
胃の内容物も夕食らしき食べ物やスナック類、やや多量の
アルコールの検出が認められた他は、薬物類などの特に不審な
物質は検出されなかった。死亡推定時刻は六月二十一日の
午前一時から二時の間。
 現場検証結果──凶器らしきものは発見されず。現場は
地下鉄南森町駅から百五十メートル北東の小学校裏手の
路上のため、指紋の検出は不可能。周囲に争った状況も
見当たらなかった。被害者の鞄等からは本人以外の指紋も
数個検出されたが、いずれも数日が経過した古いもので、
人物の特定は難しいと思われる。携帯電話の着信・発信履歴や
メールの送受信履歴、住所録の内容については分析中。
 被害者について──山蔭留美子、満十八歳。大阪市北区
同心(どうしん)1─△△のマンションで母・幹江(みきえ)(四十七歳、
飲食店勤務)と二人暮らし。現在六甲女子大学文学部
イタリア語学科在籍中。
 被害者の事件当日の行動──母親の証言によると、
被害者は前日の六月二十日午前九時、アルバイトに行くと
言って家を出た。彼女は週三日の歯科受付のアルバイトの他、
今月から休日に百貨店でも働いていたという。母親はお初天神の
近くの小料理屋で雇われ女将をやっており、その日は午後
三時頃に出勤し、帰宅したのは夜中の二時をまわっていた。
しかし被害者がまだ帰宅していなかったので被害者の携帯
電話に電話を掛けたが、被害者が電話に出ることはなかった。
母親は心配して心当たりの友人へ連絡を取ろうと していた
ところに、警察からの電話を受けた。被害者と母親は二人きりの
家族であったため非常に強い信頼関係で結びついてはいたが、
母親が夜に働いていることもあって娘の行動をあまり厳しく
監視するようなことはしなかったらしい。従って、被害者が
当日バイトに行った百貨店の名も、バイトの内容も不明。

 やがて会議は終わり、捜査員たちはそれぞれに与えられた
任務を遂行するために署を出ていった。鍋島と芹沢の二人は
二時間の休憩を許され(たった二時間!)、芹沢は署の仮眠室で
眠りにつき、鍋島は昨夜からもう二十時間近くも着ているスーツを
脱ぐためにアパートへ帰っていった。 

   今、刑事課の時計は午後二時二十分を指していた。六月も
あと十日ほどで終わりというこの時期のこの時刻になると、
窓のブラインドを通して部屋に射し込む陽の光はデスクに
反射する分余計に目にしみた。刑事課には四つの係があり、
それぞれ警部補を係長として九人ずつの刑事で構成されていた。
そしてその全員が男だった。他に庶務を担当する婦人警官が
いるにはいたが、実質男所帯のこの部屋は、廊下から伺った
だけでも雑然として汚かった。今は六人の刑事が自分の
デスクに着いて電話をしたり互いに話をしたりしている。煙草の
煙と部屋の埃が混ざり合って充満し、射し込む光の筋が部屋を
横切っているのがよく分かった。

 廊下の向こうから、階段を上がってきた鍋島の姿が現れた。
今朝までとはうってかわり、洗い晒しのジーンズに黒のデニム
ジャケット姿で、中には白のTシャツを着ていた。
「──おい鍋島、ちょっと来いよ──」
 間仕切り戸を開けて鍋島が部屋に入るなり、同じ一係の
島崎良樹(しまざきよしき)巡査部長がデスクから手招きをして
言った。三十代半ばにさしかかろうとしているすらりと長身の
刑事で、人の良さそうな顔立ちは警官というより役場の職員と
いった感じだった。
「あれ、島崎さん。係長は?」
「それなんや。ほれ、例の神奈川県警の刑事を連れて、
宿泊先のホテルへ案内してるんや」
「ああ、来たんですか」鍋島は自分の席に着いた。「課長は?」
「……課長も一緒や」
 へえ、と鍋島は片眉を上げた。「で、どんな感じです? 
島崎さんと係長が捜査協力するんでしょ?」
「それが、聞いてくれよ──」
「二人で何をコソコソやってんだ?」
 突然声を掛けられ、二人は顔を上げた。ワイシャツ姿で上着を
手にした芹沢が、万引きを見つけたときのコンビニの店長の
ように嬉しそうな顔をして立っていた。
「島崎さん、また当たらない競馬の予想でしょ?」
「違うって。横浜から来た刑事のことや」
「あ、来たんだ? それでどこに?」
 芹沢はジャケットをデスクに置いてあたりを見回した。
「今、課長と二人で宿泊先のホテルに案内してるんやて」と
鍋島が答えた。
「ホテル?」と芹沢は顔を上げた。「官舎の空き部屋じゃ
ねえのか?」
「あ、そう言うたらそうや。何でそんなに豪勢なわけ?」
 鍋島は島崎に振り返った。
「せやから、さっきから言おうとしてたんは、そのことにも関係
してるんや」
「と言うと?」
 腕を組んで椅子の背に身体を預けた島崎は、溜め息に
続いて言った。
「……女なんや、おまえらより年下の」
「♪女ぁ!?」
 鍋島と芹沢は息を合わせたように揃って、しかも嬉しそうに
声を上げた。

 


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第二章 2(後) へ

 


 

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読ませて頂きました。

遺体発見に続く鑑識の結果報告。慌ただしく動き出した捜査当局。新キャラ登場につなげる終わり方が、次を読みたくさせます。(でももったいないから今日はここで)

いまどき警察署各部屋は全面禁煙なのでしょうけれど、煙がモウモウと漂っている感じがしてしまいます。不思議。
  • from 狼皮のスイーツマン :
  • URL :
  • 2010/04/04 (09:38) :
  • Edit :
  • Res

狼皮のスイーツマン様

いつもありがとうございます。

おそらく最近の公共施設は全面禁煙がすすんでいると思います。
ただ、いつだったか忘れましたが、そう遠くない過去に、
「警察24時」みたいな番組で、刑事さんたちが会議中、
昔ながらにスパスパ煙草を吸ってらっしゃったのを見ました。
ちょっと嬉しくなっちゃいましたよ。

もちろん、分煙は大事です。^^;


  • from みはる :
  • 2010/04/05 (00:25)

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