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およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

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~ 第七章  1(前) ~


 第七章  バラード──Ballade
 
      1 

 翌朝、鍋島が出勤すると、署の玄関ロビーで芹沢の出迎えを
受けた。
「ちょっと話がある」
「なんやいきなり。刑事課(うえ)ででけへん話なんか」
「できねえからここで待ってたんだ」
 そう言って芹沢はロビーの隅っこの長椅子に鍋島を誘った。
 面倒臭そうに長椅子に座った鍋島を見下ろして、芹沢は
立ったまま言った。
「──今日の事情聴取、俺は島崎さんと組ませてくれ」
「なんや、その話か」と鍋島は頷いた。「要するに、一条とは
やりにくいってことなんやろ」
 鍋島にはすべての事情が飲み込めていたのだ。
「……分かってくれてるんなら、話は早ぇ」
「ま、俺も、けしかけるようなこと言うたかなって反省もあるし」
 鍋島は笑って言った。
「おまえに乗せられたって言うつもりはねえよ」芹沢も笑った。
「話はそれだけか」
「もうひとつ。おまえと彼女は娘の方を頼むよ。俺と主任で
おばちゃんの方を受け持つから」
「せやな。あの娘、一条には素直に喋るやろしな」
「いや、そういうことじゃなくて……彼女、おばちゃんに対する
恐怖心がまだ全然抜けてねえみたいなんだ」
 そう言うと芹沢は鍋島の隣に腰を下ろした。「……ゆうべ、
何度もうなされてた」
「そうか」
「そんな状態なのに、みすみす面と向かわせることもねえだろ。
いくらおばちゃんが逮捕直後にコロッと態度を変えて猫みてえに
おとなしくなったとは言っても、事実殺されかけたんだからな」
 芹沢の言葉に、鍋島は真顔で頷いた。
 芹沢は鍋島に振り返った。
「トラウマなんてもんを一度しょいこんじまったら、そっから先が
どれだけ厄介かってこと、おまえも俺も骨身に染みて分かってる
だろ」
「……ああ」鍋島は自分の足下を見つめた。
「主任には俺から言っとく」
「分かった」
 そう言うと鍋島は立ち上がり、芹沢に振り返ることなく先に
階段へと向かった。

 刑事部屋に着くなり、鍋島は今度は一条に呼び止められた。
「鍋島くん」
「あ、おはようございます」
 鍋島の改まった挨拶を訝しがりながらも、一条は間仕切り戸の
彼のところまで来ると言った。
「……ちょっといいかしら」
 そう言うと一条は鍋島を向かいの会議室に誘おうとした。
「あの、警部」
 一条は振り返った。
「今日は俺と組みたいって話なら、それでいいですよ」
「……え?」一条は眉を寄せた。
「そうなんでしょ?」
「……そうだけど」
 一条はますます困惑した表情になった。「……鍋島くん、
あなたもしかして──」
「ああ、必要のないことは言わない」と鍋島は一条の言葉を
制した。「俺と警部で、丸山美登利の話を聞く。今日はそういう
ことで。ね」
「……分かったわ」
 一条は事情を察し、ほっとしたように頷いた。

  そして、二つの部屋で同時に取り調べが始まった。
 事前の打ち合わせ通り、三件の殺人を計画した首謀者の
丸山美登利は鍋島と一条が担当し、殺人の実行犯でもある
辻悦子(つじえつこ)の取り調べには芹沢と島崎が当たった。

「何もかも、親父のせいや」
 美登利は吐き捨てた。制服姿で、椅子に背を預けてふてくされて
腕を組んでいる。昨日までの明るく素直な彼女からは想像も
できない豹変ぶりで、少年課に補導されてくる不良少女と
同じような冷めた目をしていた。
「どう言うことや、説明してみ」
 壁にもたれている鍋島が言った。
「健を見殺しにしたから」
「あなたと飯田健はどう言う関係?」一条が訊いた。
「恋人同士」
「恋人って……」鍋島が言って、思わず笑みを漏らした。
「何が可笑しいんよ」
「ああ、悪かった」鍋島はちらりと一条を見た。「いつから?」
「あたし、去年の春休みから親父の店を手伝うてたんや。店、
あんまり儲かってなくて、ウェイトレスを雇われへんように
なったし。健は店の常連やったんや」
 美登利は頭の良さが顔に出ているせいか、大人っぽく
見えないこともなかった。それに近頃の子供は発育がいい。
化粧をして、流行りの洋服でも着れば、十七、八歳には
見えそうだった。
「親父が健を強盗に誘たんや。去年の九月頃、あたしが健と
つき合ってるって知った親父は、言うことを聞かんとあたしとの
つき合いは認めへん、中学生とつき合うなんて条例違反やぞって
脅して。健はちょっと気の弱いとこがあったし、親父の言うが
ままに会社を辞めて横浜についていくことにしたんよ」
「それは、強盗の片棒を担がされるって分かってて?」
「もちろんよ。親父は行く前からそのつもりやったわ。他にも、
健と同じような店の常連で、長いこと横浜の大きな宝石店に
勤めてて二年ほど前に大阪に戻ってきた工藤達彦と、親父の
麻雀仲間の藤川っていうおっさんを仲間に入れて」
「きみはいつの段階でそれを知ったんや?」
「最初から知ってた。親父らが店の奥でひそひそ話してるの、
いつも表で聞いてたし」
「……まさか、お母さんも?」
「知るわけないやん。あんな、男に頼って生きるしか能のない
人が聞いたら、それこそ慌てまくって仕事の邪魔やと親父も
思たんやろ。内緒にしとけって、あたしもくどいほど言われてた」
「親父らはいつ横浜へ?」
「この前オフクロも言うてたやろ、去年の十一月や。めぼしい
宝石店を見つけて、入念に下見するのに半年は時間が掛かる
って言うてた。そやし決行は六月になったんやろ」
「──で、きみの犯行についてやけど」鍋島は言った。「飯田健が
死んだと知ったのはいつや?」
「……健は、最後まで怯えてたんよ。あたしの親父の命令やから
聞くけど、ほんまはこんなことしとうないって──それで、大阪を
発つ前の夜にあたしに言うたの。犯行の日が決まったら連絡
するけど、その日から一日経っても自分からの連絡がなかったり、
捕まったっていう報道もされへんかったら、自分の身に何か
あったと思ってくれって。そして、そのときにはある人に連絡して
ほしいんやって」
「それが辻悦子ね」
「そうよ」美登利は頷いた。

 隣の取調室では、その辻悦子が涙ながらの供述を続けていた。
「──健ちゃんは、あの子が施設にいる頃からずっと知って
いたんです」
  悦子は言った。「私の勤める博物館が施設の近くで、よく
職員さんに連れられて来てましたから。特に恐竜が大好き
だったみたいで、中学生になってからも毎日のように」
「あなたと知り合ったのはその頃ですか」芹沢が訊いた。
「確か──小学五年生の頃だったと思います。実は私もその頃、
女手一つで育てた息子を病気で亡くしたものですから……
健ちゃんとだぶってしまって。健ちゃんも私に知らないなりにも
母親のイメージを重ねていたんでしょう。よく懐いてくれました。
学校が休みの時は、二人でお弁当を持って出かけたりして
──親子のまねごとをしているうち、本当の息子のように思えて
きたんです。就職して初めてのお給料で財布をプレゼントして
くれたときは、自分が育てたわけでもないのに、涙が止まりません
でした。優しい子でした」
「彼が死んだと知ったのはいつ?」
「強盗事件のあった二日後です。勤め先に連絡が入って……
女の子の声でした」
「丸山美登利か」島崎が穏やかに言った。
「ええ。健ちゃんとつき合うてたって言うて──健ちゃんからも、
そんな女の子がいるってこと、ちらっと聞いたことがあったんです。
就職してすぐ、アパートの近所に行きつけの喫茶店ができて、
そこの娘さんと知り合ったって」
「それで、美登利は何と言うてきた?」
「横浜に行った健ちゃんからの連絡が途絶えたって。それで、
もしかしたら死んだかも知れないって。私はそれはもう、
びっくりしました。健ちゃんがしばらく横浜へ行ってるのは
知ってましたが、てっきり仕事やと思てましたから。それで、
彼女とはその翌日に会う約束をしました。そのときです。彼女から
すべての話を聞かされたのは」
 そう言って悦子はまた涙を流した。三人の女性を惨殺し、
一条まで狙った大女には似つかわしくない、さめざめとした
泣き方だった。



目次
第七章 1(後) へ


 

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