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およそ【文学】とは言い難いけれど。

みなさまのコーヒーブレイクのおともにでもなれば・・・。

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~ 序章 (後) ~



 鍋島と麗子は披露宴会場のそばまでやってきた。
 そこでは、会場おもての金屏風の前で、新郎新婦が友人らしき
来賓客とカメラに収まっていた。それぞれの両親と仲人はすでに
引き払っており、盛大だったに違いない宴の余韻を残しながらも、
今はよりフランクな空気が新郎新婦を包んでいた。
 二人はその様子を少し離れた場所から眺めた。
 真澄は肩とウエスト部分にフリルの付いたピンクのワンショルダーの
ドレスを着ていた。甘い印象の花柄がひときわフェミニンな香りを
漂わせている。品の良さは普段と変わらなかったが、そこに一層の
華やかさが加わり、見ていて眩しかった。
「綺麗」
 麗子が感嘆の声で言った。
「うん」
 鍋島も素直に頷く。
 真澄は友人の構えたカメラに笑顔を向けながらも、一緒にレンズに
収まっている新郎に何度も視線を移し、目が合うとさらにその笑顔を
輝かせた。晴れの日に、心の底から幸せを噛みしめている、
そんな表情だった。
 やがて今度は新郎がカメラマン役にまわり、新婦をその友人たちが
囲んでポーズを取り始めた。すると、隣に並んだ着物姿の一人に
短く話し掛けられて、真澄の笑顔はみるみるうちに引っ込み、思いの
詰まった泣き顔に変わった。それを見て着物の友人は慌てたように
真澄の肩を抱き、自分も表情を崩した。
 他の友人たちもそれぞれに感激で胸を詰まらせている様子で、
カメラを構えるのをやめてその様子を伺っていた新郎も、ついには
その鼻の先を赤く染め始めた。
「……やだ、もらい泣きしそう」
 麗子が呟いた。
「えっ、やめてくれよ」
 鍋島は小さく驚いて麗子に振り返った。
「分かってるって」
 麗子はちょっと呆れたように笑って鍋島を見た。そしてまた新郎
新婦たちに視線を移すと、今度は、心底から安堵しているような
感慨深い声で言った。
「ほんとに良かった。この日を迎えるのが待ち遠しかったわ」
「……俺のせいで、いろいろ心配かけたしな」
「そういう意味じゃないわ。真澄とあなたのことは、あたしもう全然
心配なんてしてなかったわよ」
 麗子は言うと、満たされた笑顔で鍋島を見た。「あたし、あなたの
気持ちに自信があるもの」
 鍋島ははにかんで頷いた。すると麗子は今度は表情を一転させ、
曇った真顔で続けた。
「……だけど、ここ何日かは違ったわ。まるで生きた心地がしなかった」
「ああ」
 鍋島は短く言うと、同じように笑顔を消した。
「正直、あなたたちを信用し続けることの確信を失いかけたことも
あった」
 鍋島は口を真一文字に結んだまま頷いた。
「だけど」
 と麗子は言った。相変わらず笑顔はなかったが、代わりに力強く、
誇らしげな眼差しで自分の婚約者を見つめ、言った。
「あたしの心配をよそに、あなたたちは本当に優秀な警察官だったわ」
「そりゃどうも」
 鍋島はこくんと頷くと、満足げに麗子を見つめた。

 写真撮影が終わったようで、友人たちが新郎新婦のそばを離れて
こちらに向かってきた。真澄は一人一人に手を振りながら、金屏風の
前で彼女たちを見送った。やがてその視線が、友人たちの脇に立つ
鍋島と麗子に留まると、今までの至福の笑顔をより一層輝かせ、
声を上げた。 
「勝(かっ)ちゃん!」
 真澄の声で、新郎も振り返った。そして彼もまた、それまでの
ややぎこちなかった微笑みを一変させ、本当の笑顔になって両手を
パチンと合わせた。
「やぁ、これはどうも!」
 鍋島は麗子と顔を見合わせると、二人で新郎新婦の元へ歩み寄った。
「連れてきたわよ」
 麗子が二人に言って、鍋島に振り返った。
「真澄、おめでとう」
 鍋島は言った。そして新郎にも向き直って、「おめでとうございます」
と頭を下げた。
「やっぱり来てくれたんやね、勝ちゃん。ありがとう」
 真澄は両手を胸に当て、小躍りするように喜んだ。
「真澄の晴れ姿、ひと目見とかんと後悔すると思って」
 そう言うと鍋島は腕を組んだ。「綺麗やなぁ」
「ほんとに? ありがとう」
「うん。びっくりした」
「きっと麗子はもっと綺麗よ。二人も早く結婚すればいいのに」
 真澄は嬉しそうに言って、麗子に目配せをした。麗子は恥ずかしそうに
俯くと、バッグの中からデジカメをとりだした。
「勝也、写真」
「あ……うん」
 鍋島は照れくさそうに鼻を掻いた。
「じゃあ僕が撮りましょう」
「あ、寛隆(ひろたか)さん、いいかしら?」
 真澄はちょっと申し訳なさそうに新郎の顔を覗き込んだ。
「もちろん」
 新郎が言って麗子からカメラを受け取った。「麗子さんも入って」
「そうよ、麗子も。勝ちゃん、両手に花よ」
「あたしはいいわ。二人で撮って」
 そう言って首を振ると、麗子は新郎に振り返った。
「中大路(なかおおじ)さん、かまわないでしょ?」
「ええ、僕は」
「勝也も」
 鍋島はゆっくりと頷いた。「ああ」
「麗子……」
 真澄はちょっと困ったようにべそを掻いた。「でも、あたし……」
「晴れの日に、新婦が何を遠慮してんのよ。好きに振る舞えばいいん
だから」
 麗子は言うと手を振って真澄と鍋島に並ぶよう促した。
「真澄、特にあんたはね、昨日までホントに……頑張ったもの」
 最後の方は涙声になりながら、麗子は二人から一歩下がると
新郎に振り返った。
「ごめんなさい、どうぞお願いします」
「……分かりました」
 新郎も神妙な顔つきで頷くと、カメラを構えて新妻に言った。
「マァミちゃん、最高の笑顔でね」
 すると、鍋島が感極まった様子で俯いている真澄の顔の前に腕を
差し出した。
「いいかな?」
「勝ちゃん……」
「二人で撮ってもらおう」
 鍋島は優しい眼差しで真澄を見つめて静かに言うと、柔らかく
微笑んだ。
 真澄はこくんと頷いた。ゆっくりと鍋島の腕に手を回し、自分の夫が
ファインダーを覗くカメラに向かって笑顔を見せた。
「撮るよ。チーズ」
 新郎が言って、シャッターを切った。鍋島は真澄と顔を見合わせ、
それからもう一度「おめでとう」と言った。

 するとそのとき、突然真澄が鍋島の両肩に腕を回して抱きついた。

「……真澄……」
 鍋島は驚いて、両手を広げたまま立ちつくした。
「……勝ちゃん、今までホントにありがとう。それと……数え切れへん
くらいいろいろ迷惑かけて……ゴメンね」
 真澄は思い詰めたように言うと、鍋島の肩に回した両腕をしっかりと
組んだ。
「あたし、これまでとっても幸せやったから。嘘やないよ」
「そうか」
「それに、これからもっと幸せになるわ」
「そうやな」
 そして鍋島は下ろしていた両手を真澄の背中に回し、包み込む
ようにして彼女を抱きしめた。
「──俺、ずっと真澄のことを大事に思ってた。この意味、分かるよな?」
「……うん」
「それに、麗子のことは真澄のおかげや」
「うん」真澄は目を閉じて頷いた。
 やがて鍋島はゆっくりと真澄から身体を離し、両手を彼女の肩に
添えると穏やかに笑いかけ、言った。
「出逢えて良かった。俺の一生の宝物や」
 真澄は今度は大きく頷き、静かに微笑んで大粒の涙を流した。
「……ありがとうね。勝ちゃん」
 その様子を見守っていた麗子と新郎も、それぞれの瞳を潤ませ
ながらも笑顔を絶やすことはなかった。

 それぞれに、五日前に始まったあの忌まわしい出来事を思い出しながら。


                     ── 序章 おわり ──



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こちらで読ませて頂きました

 真澄さんおめでとうというはじまりで事件がはじまるのですね。
 断続的にいくつかの通信講座で学び違う角度で同じ説明を耳にして理解できたこと、そういうのをみはるさんは早い時期に理解なさっているところが凄い。
 ネットでやるとネット系の小説賞にしか公募がきかないので、新作は伏せておいて、ぜひメジャー賞に出馬なさって下さい。
  • from スイーツマン :
  • 2016/05/17 (05:32) :
  • Edit :
  • Res

Re:こちらで読ませて頂きました

お世話になります。コメントありがとうございます。返事が遅くなって申し訳ありません。
いつも温かいお言葉をいただき、感謝いたします。
作品の作り方については、きちんと勉強したことがなく、あくまで我流なので、果たして正解かどうかはまったく分かりませんが、自分にはこれしか出来ないと思っているので、今後も、読んでいただいているみなさまのご意見、ご感想を拝聴しつつ、これからも精進していきたいと思います。
作品の公募については、当たり前のことですがどの賞に関しても応募規定があり、それを考慮して作品を作らなければならず(特に私の場合は枚数制限)、メジャーデビューを目指していない現時点では、やはりこういう場での活動を続けていきたいと思います。
今後とも宜しくお付き合いの程お願いします。
  • from みはる :
  • 2016/05/24 (12:15)

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